在宅か、施設か?高齢期介護の正しい選択とは?①~幸せのU字曲線

相続アドバイザーの守屋佳昭です。突然ですが、皆さんは「幸せのU字曲線」をご存じでしょうか?

2019年の研究で、アメリカ・ダートマス大学の経済学者デイヴィッド・ブランチフラワー教授が世界132カ国のデータを分析し、人生の幸福度が最低になる年齢は先進国で47.2歳、発展途上国では48.2歳であると発表しています。
幸福感を縦軸に、年齢を横軸にしてグラフにすると、全ての国で18歳くらいから低下していき、40歳代後半で底を打ち、その後は上がっていくU字カーブになります。

下記のイラストは英語表記になっていますが、縦軸が幸福感の指数、横軸が年齢になっていて、幸福感は年齢とともにU字カーブを描いています。

皆さんは、どのように感じるでしょうか?

私自身はというと、48歳前後のときは仕事面、プライベート面で幸福感を味わっている余裕はありませんでした。逆に幸福感を味わうという意味ではボトムだったかもしれません。おかげさまで現在は、会社も退職し、プライベート面でも幸福な毎日をおくっています。年齢も64歳になりましたので、U字曲線によれば30歳前後の幸福感に戻ったことになります。

なるほど、30歳前後は、18歳前後のような、怖いもの知らずの全能感、高揚感ではありませんでしたが、確かに仕事面、プライベート面で充実感を感じていました。

そのように考えると、幸福感が48歳前後が底で、U字を描くのは首肯できる部分はあると思うのですが、U字カーブが高齢期に下がることなく、最期まで上がり続けるためには、いくつかの条件をクリアする必要があるような気がします。

全3回の初回の本稿では、その条件について考察を開始してみたいと思います。

加齢のパラドックス

では、なぜ幸福感が高齢期に上昇していくのでしょうか?

その理由は6つ考えられるといわれています。

ひとつめは、高齢期になると現役時代のように気の進まない仕事をしたり、いやなやつと付き合わなくてもよくなるからです。

二つめは、新たな環境で自分が望む新しい役割を見出せるからという説です。すなわち、やりたいことを始めたから幸福感が増すということです。

三つめは、それまでの仕事なり経験なりを社会のために継続して提供し、それを社会も受け入れられるから幸福感が上がっていくという説です。変わらぬ役割が、いつまでも社会の役に立っている喜び、生涯現役で頑張り、周囲も社会もそのいぶし銀の腕や年の功を重宝する関係が成り立っているという説です。

四つめは、目標を達成できなくて、不本意な結果に終わっても、年をとるとその現実を上手に解釈できるようになるからだという説です。若い頃は失敗に対してひどく落ち込んだり、自分を責めたりしがちですが、高齢者は様々な経験から、また物事を上手に受け入れて咀嚼し、必要以上に及び思い悩まず、こだわりすぎず、柔軟に精神的な安定を図れるようになっていきます。「逃げるは恥だが、役に立つ」というところですね 。

五つめは、あらゆる喪失や死を受け入れることができるようになるからです。若い頃に受け入れられなかったこと、若い頃には恐れの対象であったものを恐れず受け入れられるようになる。老いや死を淡々と受け止めることができるという説です。

六つめは、一種の解脱というか、仙人のように世俗を超越した心を持つという説です。現実に存在する物質世界
から、現実には存在しない精神世界へ認識が変化していくことということでしょうか?

このように高齢期には体の機能や要望が衰えて行き、様々な喪失(職業、収入、配偶者、友人、子供の独立など)を経験するため、普通に考えれば、徐々に幸福感が低下していくはずなのに、実際には高齢者の幸福感はだんだんと上昇していくというわけです。

物質的なものを「手放」し、精神的におのれを捨て「成仏」していくことで、俗世間からの「解脱」が図れ、年をとることで自然と「悟り」が開かれ、幸福を感じるということなのでしょう。

要するに、様々なものを「手放す」ことで、逆に「得られる」という逆説の幸福感というべきなのでしょうか。

介護が本当に必要な期間は何年か?

そうはいっても、人生の最晩年が最も幸福である、というのはにわかには信じがたい人は多いのではないでしょうか?

やはり、何らかの条件が揃う必要がありそうです。

インド哲学には、「四住期」という考えがあります。五木寛之の著書で知った方もおられるのではないでしょうか?

人生には、学生期、家住期、林住期、遊行期の4つの期があるという考えです。ここではその一つひとつを解説いたしませんが、最晩年には、人生の最後の場所を定め、遊ぶように何ものにもとらわれず、楽しむ時期が待っているという考えです。

ここでお話ししたいのは、この遊行期(最晩年)を幸福に過ごすために、私たちが間違えてはいけないポイントについてお話ししたいと思います。

逆に言えば、新聞雑誌などから刷り込まれた、私たちの脳が間違いを犯しやすい「思い込み」などです。

その典型である「健康寿命」について説明します。

厚生労働省の最近の統計では、男性の健康寿命は約71歳、女性のそれは約74歳です。それぞれの平均寿命が、男性約80歳、女性約87歳です。

したがって、ここから導かれるのは「健康ではない期間」(=要支援、要介護の期間)は、平均寿命から健康寿命を引いた男性9年、女性13年ということになります。

ここに数字のトリックが隠されています。

健康寿命とは、国民生活基礎調査において、老若を問わず、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問をし、

  • 日常生活に制限のない期間の平均
  • 自分が健康であると自覚している期間の平均

の2点を算出する結果、実際には短く算出されます。

本来、平均寿命との関係で比較しなければならないのは、「自立可能期間」のはずです。

したがって、以上の結果から、健康寿命とはかなり誤解を招きやすい概念と言わざるをえません。

  • 健康寿命はかなり短く算出され、高齢者の自立可能期間とは全く無関係の数字。
  • そもそも、例えば70歳まで元気で生きてきた人にとって、健康寿命は全く意味のない数字。
  • まるで「高齢者が自立を失う年齢」のような印象操作を行っている。
  • 結果として、「要支援」「要介護」の期間が長くなるように見せている。

健康食品やサプリメントなどを販売する会社などは、「健康ではない期間」すなわち要支援、要介護の期間が長くなるように見せることの方が好都合だと思うのは、下衆の勘繰りでしょうか?

要支援、要介護の期間は、平均自立期間と平均余命との比較で、初めて意味を持ちます。

  • 平均自立期間とは、肉体的・精神的にあと何年自立した生活が期待できるかを示した指標。
  • 健康寿命とは全く異なる概念の指標。

ただし、あくまで「平均」なので、実際にどうなるかは別ですが、令和2年のデータですが男性の平均自立期間は、79.8歳、平均余命は81.3歳、女性の平均自立期間は、84.0歳、平均余命は87.3歳です。

したがって、要介護期間は男性で1.5年程度、女性で3.3年程度です。先ほどの男性9年、女性13年とはかなり違いますね。

逆に言えば、要支援、要介護で高齢者施設のお世話になるにしても、在宅介護で最晩年を過ごすにしても長くて3年から4年程度で済むということです。決して9年、10年という単位ではないということは覚えておかれるとよいでしょう。ちなみに介護付き優良老人ホームの平均入所期間が3年3ヶ月というデータもあります。(以上はあくまでも平均の話です。実際には異なるリスクもあります)

老後2000万円問題の本質

2019年に「老後2000万円問題」が話題になりました。

家計調査によると、無職の高齢夫婦のみの世帯では毎月約55,000円を取り崩して生活している。赤字は年間66万円になります。

仮にあと30年生きるとすれば66万×30年で約2000万 円 が必要になるという、非常に単純な計算です。

ところが、別の論文では高齢夫婦世帯を取り崩し額は約1万円に過ぎません。この論文が指摘しているのは
調査においてかなりの割合で年金収入の記入漏れ、記入忘れがあるという点です。

実際には95%を超える高齢者が年金を受給しているのに、家計調査で年金の受給額を記入しているのは約75%しかいなかった、つまり約20%の人が年金収入があるにも関わらず無収入世帯とカウントされているというのです。

また、遺産相続の平均額は3273万円、中央値は1600万円という調査結果(2020年度調査結果)があります。

さらに、70歳以上の金融資産平均値金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」によると、平均値は1,780万円、中央値は700万円となっています。

因みに私の肌感覚では、高齢者無職夫婦が毎月約55,000円を取り崩している実感はありません。

高齢者には、特に欲しいものもありません。電化製品などが壊れたら買い替える程度です。

高齢夫婦ふたりで食費もたかが知れています。

古くても、持ち家さえあれば、持ち出しが約1万円程度というのが、妥当のような気がします。

したがって、老後2000万円問題とは、かなり「眉唾もの」だと感じます。

高齢期の6つの課題

アメリカの教育学者・ハヴィガーストはその著書「人間の発達課題と教育」の中で高齢期について以下の6つの発達課題を提示しました。

発達課題は、人間が健全で幸福な発達を遂げるために、各発達段階で達成しておかなければならない課題であり、次の発達段階にスムーズに移行するためにそれぞれの発達段階で習得しておくべき課題と定義されています。

逆に言えば、これをクリアすれば幸福が得られ、さらに歳を重ねた時にはその状況にうまく適応していけるということになります。

高齢期における6つの発達課題とは、①体力や健康の衰えに適応すること②引退と収入の減少に適応すること③配偶者の死に適応すること④同年代の人々と親密な関係を結ぶこと⑤社会的、市民的義務を果たすこと⑥身体的に満足できる生活環境を確立することです。

①から⑤においては、なんとなく常識的に判断して、感覚的に納得できるところではないでしょうか?

ここでは、特に⑥身体的に満足できる生活環境を確立することに注目します。

「身体的に満足できる生活環境を確立すること」とは、若い頃のままの生活環境は高齢者にとって危険であったり、不都合が多くなったりするから、高齢期にふさわしい家や環境に身を置くようにしなければならないという課題です。

若い頃には気にもとめなかったことが高齢期には苦痛になったり、場合によっては大きな事故に繋がったりします。

自立生活を継続するため、スーパー、病院、金融機関など近くにあるかどうか、段差や坂道がきつくないか、居室や浴室などに大きな温度差が無いかどうか、庭の手入れが大変ではないか、体調の急変や事故災害などの際に手助けをしてくれる人がいるかどうか等に注意し、問題があれば、住宅のリノベーションや住み替えも検討すべきではないでしょうか?

ここで焦って高齢者施設などの住み替えはお勧めしません。

なぜなら、幸福感は自己決定度に影響を受けるからです。

食事の場所や時間など、団体生活をするにあたってルールに縛られるのではなく、好きな時間に好きなものを食べる方が自己決定度が高いからです。

幸福な高齢期への4つのステップ

中高年の脳や知力の心理的成長について言及したジーン・コーエンは、人生の後半期における発達のステップとして、「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の四つがあると唱えました。この4つの段階を順に踏んで行くようにすれば、幸福な高齢期が実現すると考えたのです。


まず、「再評価段階」ではこれまでの人生や自分自身を見つめること。これまでの経験を振り返って冷静に
残された時間をどのように使うべきかを考えることが大切になってくる。また死を徐々に意識しておくようにするのも欠かせない、としています。

次に、「解放段階」で時間的にあるいは精神的に縛られていたことが減ったことを自覚すれば、その結果、それまでの人生はではできなかったことをやりたいという意欲が湧いてくる。「再評価段階」で死や残された時間を意識していれば、今やりたい、やるしかないといった欲求が出てきます。

退職やこの独立によって仕事や家事、子育てといった「やらなければならないこと」ではなく、「やりたいこと」に焦点が当たるようになり、それは不自然でムリする自分ではなく、本来の自分らしさを取り戻すことにも繋がります。

「まとめの段階」では、やりたいことをやっている本来の自分を改めて見つめ、これまでの人生を総括すること。そしてやりたいことに集中できている環境ややりたいことに自由時間が使える社会やそれを支える人々への感謝を持つこと。そしてこのような気持ちは自分の行動を恩返しや貢献に向かわせることができます。

人生をしっかり総括できれば、死を恐れない態度が身につきます。そうすれば死後に子や周囲に迷惑をかけないための準備整理に落ち着いて取り掛かることができるようになります。

最後の「アンコール段階」になることができれば、コンサートが終了したときに演奏者がリラックスして演奏するように、気楽な気持ちでマイペースで人生の最後の余韻を楽しんでいるような状況になれます。

この4つのステップは理想的な就活のガイドラインになります。介護、相続、遺言、葬儀、ものの処分などどうするかを具体的に決めようとする、いわゆる「終活」にも力を発揮します。
さらに人生の終盤の生き方、終い方についてもっと高い視点から考えてみられるようになります。

参考出典:
①年よりは集まって住め~幸福長寿の新・方程式~ 川口雅史 幻冬舎ルネッサンス新書
②施設に入らず「自宅」を終の住処(ついのすみか)にする方法 田中聡 詩想社新書

③ハピネス・カーブ人生は50代で必ず好転する ジョナサン・ラウシュ CCC MEDIA HOUSE

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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