まずは知っておきたい!3つの相続の仕方とは?|相続基礎知識①

相続アドバイザーの守屋佳昭です。
これから3回に分けて相続の基礎知識について書いてみたいと思います。

混同されがちな相続の専門用語

最近は何でもネットで調べることができ、便利な半面、残念なことに相続について断片的な知識での用語の誤法や思い込みが横行しているように感じています。

たとえば、相続無料相談会でも「相続放棄」と「相続分の放棄」の用語を混同して話をされるご相談者がいます。
ご相談者との会話の中で「兄には相続放棄してもらったので・・」などと言われます。

厳密に言うと「相続放棄」とは、親の借金返済などを免れるために放棄した人は初めから相続人としていなかったことになる制度です。
「相続分の放棄」とは相続人としての立場はそのままで、分割協議等の場で相続財産の承継を拒否する意思表示です。
被相続人に多額の債務があった場合には「相続放棄」しておけば債務を免れるのに対し、「相続分の放棄」では債務から逃れることはできません。

上記の会話の例では、専門家は「相続分の放棄」のことを言っているものと推測できますが、明らかに用語を混同しています。
日常会話ではどちらも同じ意味で使っているかもしれませんが、法律的な効果は全く違います。
相続に限らず、法律用語は私たちの常識的な解釈と法律上の解釈は異なっていることがあります。

また個別の相続案件ではそれぞれ状況が異なります。単なる用語の誤りでなく、法律の用法を間違えると厄介なことになります。
たとえば相続税法ではAの状況で言えることが、Bの状況では言えないこともあります。

相続のことは専門家に任せた方が良い理由

また法律は細かい例外規定があることが多く、また最近では民法条文が改正されることも頻繁となりました。
したがって、相続についてネット情報などをつぎはぎして独自の解釈をするのではなく、基本的な構造を正しく理解(勉強)することが大事です。

自分の解釈の裏(根拠)を取ること、信頼できる専門家にセカンドオピニオンを取ることなどの細心の注意をもって理解することも必要です。
半知半解な知識で間違った方向に突っ走った結果、手痛い失敗をすることは避けなければいけませんね。
そのために専門家の知識も上手に使いこなしましょう。

専門家は当然のことながら素人よりはるかに多くの案件に接していること(経験)、さらに本物の専門家は法律の裏側まで知悉し(知識)、例外や私たちが陥りやすい思い込みまで理解(勉強)しています。

さらに本物は、人格にすぐれ、ご相談者の人生そのものをバックアップする視点を持っているものです。

相続の専門家に必要とされる三要素

では本物の専門家をどのように判断すればよいのでしょうか?
以下は私見ですが、まずはご自身がそのテーマについて基本的な知識を体系的に身につけ、ご自分のものとすること。
次に人格、知識、経験の3つの観点から専門家に複数会うこと。
ご自身が経験知を増やすことで自ずと本物の専門家を見分ける選択眼が養われると思います。

それでは早速、基本的な知識を身につけることから始めましょう。
基本的な知識を身につけ、ご自分で考えたり、ご家族と話し合ったり、セミナーや書籍から学ぶことで正しい知識をご自分のものにしましょう。(きっとそのことがご自分やご家族の幸福に繋がってゆくと思います)

そこで今回は、相続基礎知識として相続開始後の基本的な流れについておさらいし、陥りやすい思い込みについても考察してみたいと思います。
さらにそこに関連する最新の相続法改正の情報もポイントとして盛り込んでいくことにします。
同じ話が繰り返し出てきますが、是非最後までお付き合いください。

そもそも相続とはなにか?

まず相続の定義ですが、相続とは被相続人(亡くなった方)の財産上の地位を引き継ぐことです。

財産上の地位とは、不動産、預貯金などの他、債務(借金など)、裁判上の地位が含まれます。

また、相続の語源は「相(すがた)を続けること」で、先代の生きざまを子孫に引き継いでいくことと言われています。

以上により、相続の意味はただ単に親・先祖の財産をもらうことではなく、プラスの財産とともに債務などのマイナスの財産もそっくりそのまま引き継ぐことで、親・先祖の生き様を次代に継承していくことです。

なお、人がどのように自分の財産を引き継がせるかは、その人(与える人)の自由です。生前に贈与することも出来ますし、死後に遺言で相続人に相続させることも、相続人以外の者に無償で与えること(遺贈)も自由です。(もっとも遺言を書くも書かないのも自由です)

後で詳しく述べますが、相続は私たちが陥りやすい思い込み=「相続は親・先祖の財産をもらうこと」、ではないことです。あくまでも引き継がせる(与える)人が主役であることを是非押さえておいてください。

ただし、相続人(もらう人)にも遺留分という固有の権利があります。(遺留分については後述します)

誰が相続人となるのか?

遺産の分け方は遺言の有無で大きく変わります。

法律的に有効な遺言がある場合には、遺産分割は原則、遺言通りに行われます。
遺言がない場合(あるいは遺言が法律的に有効でない場合)には、相続人の話し合いで行います。これを「遺産分割協議」といいます。

ここで問題になるのが「誰が相続人になるのか?」ということです。

民放で定められている推定相続人とは

民法では相続人の範囲が決められています。配偶者(夫にとっての妻。妻にとっての夫)と血族です。

さらに血族は直系血族と傍系血族に分かれます。直系血族は父母、祖父母、曾祖父母などの①直系尊属と子、孫、曾孫などの②直系卑属に分かれます。
傍系血族とは兄弟姉妹、甥姪をいいます。

さらにこの範囲の中でも一定の順位が決まっていて、現実にどのようなメンバーが存在するかによって、相続権を持つ者が決まります。(この民法の規定は後述します)

後順位の者は相続人にはなれません。こうして決まった者を「推定相続人」といいます。

相続人のメンバーが変わることもある

しかし「推定相続人」がそのまま相続人になるとは限りません。

前述した相続人としての立場を失うことになる「相続放棄」、そして「相続欠格」、「相続廃除」があると相続の順位が変わり相続人のメンバーが変わることがあります。

ここで「相続欠格」とは、犯罪行為などにより相続する権利を失うこと、「相続廃除」とは、著しい非行や虐待などで家庭裁判所が相続人から除外することで、いずれにしても相続人のメンバーから外れることになります。

また相続の際に相続人が既に死亡している場合があります。たとえば、親が死ぬ前に子が先に死んでいる場合などです。

代襲相続とは、このような場合で既に死亡した子に子がいる場合にはその子(被相続人の孫)に相続権を持たせる制度を言います。

代襲相続は、直系血族(孫、曾孫、玄孫)と傍系血族(甥姪)の2つのパターンがあります。尚、直系卑属は何代でも代襲していくのに対し、傍系卑属は甥姪で打ち切りになってその先は代襲しません。

また直系尊属(父母、祖父母)の代襲はなく、相続放棄した者の子にも代襲は発生しません。なお、上記の欠格や廃除は代襲の要因になります。

相続人が全くいない場合はどうなる?

たとえば身寄りのない老人が孤独死した場合は、遺言もない場合には利害関係人等の申し立てで「相続財産管理人」を家庭裁判所が選任します。
相続財産管理人は相続財産を管理する一方で、相続人捜索の公告を出します。

6ヶ月経過しても相続人が現れなければ相続人不存在が確定し、特別縁故者の申し立てにより財産の全部または一部が分与されます。
そして最後に残った相続財産は国庫に帰属します。

余談ですが、相続が原因で発生した所有者不明土地や空き家問題は、特定の土地、建物を「相続放棄」することができれば、国庫に帰属することで問題解決の一助になると思います。
現状では、この問題は「相続放棄」はしていないものの、実質的には放置されてしまっている土地や空き家が引き起こしている問題だからです。
繰り返しになりますが、現行の法律では「相続放棄」は特定の財産のみ放棄することはできず、一切の財産を放棄することしかできません。

放棄されていない財産は、必然的に「単純承認」されたものとみなされ、マイナスも含め一切の財産を包括的に承継したものとなります。

相続の仕方とは?

被相続人の財産を相続するもしないも相続人の自由です。特に親が残した債務(借金)が多大な場合には、相続放棄をすることで債務から免れることができます。

一切の財産を承継しない相続放棄

相続放棄するとマイナスの財産も含め一切の財産を承継しないことになります。

相続放棄する場合には、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に「申述」という手続きを取ること。(この3ヶ月を「熟慮期間」といいます)
相続放棄は他の相続人の合意は不要で、単独でできます。

相続放棄したら相続順位が変わる可能性があります。相続放棄したら、前述したように「代襲相続」はできません。

また、相続放棄は債務から逃れる他、他の相続人の相続分を増やすためや不良資産となった土地、空き家を捨てるために戦略的に使うことができます。

ただし、相続放棄した不良資産(土地、空き家)も「引き渡し」を終えるまでは「管理責任」を問われますのでご注意してください。たとえば、相続放棄した土地ががけ崩れした、相続放棄した家が放火された場合、その管理責任は国庫に入る(引き渡し)までは相続人の管理責任が問われます。

また費用もかかりますので、放棄するといえども専門家にきちんと相談をすることをお勧めします。

相続放棄に似た手続き限定承認とは

限定承認」とは借金の額(マイナスの財産)が不明でもプラスの財産の額を限度に相続を承認することです。

マイナスの財産を全て引き継ぐ必要はなく、またプラスがマイナスの財産を超えている場合は差額の財産を引き継ぐことができる制度です。
限定承認する場合には、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に「申述」という手続きを取ることは相続放棄と同じです。

限定承認は他の相続人全員の合意が必要です。また限定承認しても相続順位は変わりません。

このように限定承認は相続人にとってありがたい制度ですが、手続きに精通している専門家は希少なのが実態です。
限定承認をするときは是非、当協会にご相談ください。

相続放棄、限定承認の手続きをしなければ「単純承認」となり、無制限に被相続人の財産的地位を相続し、責任を負うことになります。
単純承認には特に手続きは必要としません。

ただし、親の財産に手をつけたり、隠したりすると単純承認したものとみなされ、相続放棄、限定承認しても裁判所で認められなくなるので注意が必要です。

まとめ

以上のように相続の仕方には、

  1. 単純承認
  2. 相続放棄
  3. 限定承認

の3つがあります。

余談ですが、多額の債務のために相続放棄する場合には、後順位の相続人にも一報することは最低限のルールとして守りたいものですね。

相続放棄は単独でできるので、たとえば亡くなった方の奥さんや子供は3ヶ月以内に放棄できても、他の相続人の合意は不要です。

知らないところで親戚の債務を背負わされるのは酷いことです。それを避けるためにもある程度の親戚づきあいも必要なことかもしれません。

また、債権者は相続開始後3ヶ月は沈黙を守ります。3ヶ月間、放棄がなく過ぎれば単純承認とみなされ、債権者は相続人に債務の返済を請求できるからです。

ただし、このような場合でも3ヶ月経ってしまったからといって諦めないで、司法書士などの専門家に相談してください。
当協会でも信頼できる専門家をご紹介することは可能ですので、決して一人で悩まず、是非ご相談ください。

次回は、相続財産の分け方の基準について考察したいと考えます。

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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