相続登記を義務化する法改正が成立!

2021年4月21日、【民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する法案】が参議院本会議で可決・成立しました。

相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に行う登記の名義変更をいいます。今まで相続登記は任意で強制力が無く、申請期限もありませんでした。そのため、登記費用や登記の手間、遺産分割未了などの理由で相続登記を行わない不動産が増え、相続登記をしないまま相続が繰り返されると、土地所有者がねずみ算式に増加し、所有者が不明の土地が全国で増大し深刻化しています。

4年前の国交省の調査によると、不動産登記簿を見ても誰が持っているか分からない土地が、全国の土地の22%を占めるそうです。2016年時点で所有者不明土地面積は推計で約410万ha有り、九州の土地面積約367万haを超えるとされています。超高齢化による多死・大量相続時代を迎え、何も対策を講じなければ所有者不明土地は益々増大していくと考えられ今回の改正になっていますが、所有者不明土地がこれほどになるまで対策を講じなかった国の責任も問われます。

所有者不明土地の主な原因は、相続登記がされていないことが全体の2/3、住所変更登記がされていないことが全体の1/3を占めています。そこで所有者不明土地の発生を防止するため、相続登記と住所変更登記が義務化され、違反した場合の罰則が設けられました。

今回の改正のポイント

〔1〕土地・建物の相続登記を義務化

相続により不動産の所有権を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から「3年以内」に、相続登記の申請をすることを義務付けられました。申請すべき義務がある者が正当な理由無く申請を怠ったときは、「10万円以下の過料」が課せられます。

〔2〕不動産所有者の住所・氏名変更登記を義務化

不動産所有者の氏名・名称・住所等について変更があったときは、その変更があった日から「2年以内」に変更登記の申請をすることを義務付けられました。正当な理由無く申請を怠ったときは、「5万円以下の過料」が課せられます。

〔3〕相続人申告登記の新設

3年以内という相続登記の期限に間に合わない場合、相続人であることを申し出れば相続登記をする義務を一旦免れる制度(相続人申告登記)が設けられました。申し出がされた場合、法務局の登記記録に申し出た者の氏名・住所などが記録され、相続登記の義務を免れることができます。相続人申告登記は相続登記そのものではなく、あくまで「登記簿上の所有者」が亡くなったことを示しているにすぎないので、その後遺産分割協議が成立し不動産の所有権を取得した場合には、改めて遺産分割の日から3年以内の登記が必要になります。

〔4〕特別受益・寄与分に10年間の期間制限

民法上は、遺産分割には期間の制限はありませんが、改正後は特別受益と寄与分については、相続開始から10年間経過すると主張することができなくなります。但し、協議による遺産分割は排除していないので、改正後も遺産分割協議において、法定相続分と異なる割合で特定の相続人に相続させることは可能と考えられます。

〔5〕土地所有権の国庫帰属制度の新設

土地の所有権を国に引き取ってもらえる者は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により、その土地の所有権を取得した者に限られます。相続人が以前から所有している土地を引き取ってもらうことはできません。土地所有権の引き取りを希望する相続人は、法務大臣への承認申請が必要です。承認申請対象地は通常の管理又は処分するに当たり過分の費用又は労力を要しないことが要件となっており、具体的には以下のような土地でなければなりません。この制度は結果的に要らない土地を放棄できる画期的な制度ですが、承認のハードルは高いものとなっています。

要件 ①建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がない土地 ②土壌汚染や埋設物がない土地 ③崖等がない土地 ④境界が確定しており、権利関係に争いがない土地 ⑤抵当権等の担保権等が設定されていない土地 ⑥通路など他人によって使用されていない土地  など

土地所有権の引き取りを希望する者は、上記の承認があったときは、その土地の管理に要する10年分の標準的な土地管理費相当額を納付しなければならないことになっています。 (参考)現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野約20万円、市街地の宅地(200㎡)約80万円

今回の改正は、相続登記の義務化のほかにも、所有者不明土地問題と密接に関連する共有制度の見直しや、所有者不明土地に関する財産管理制度の見直し、隣地所有者との相隣関係の見直しなども含まれています。

改正法の施行日は、原則として公布(2021年4月28日)から2年以内の政令で定める日となっていますが、相続登記義務関係の改正については公布後3年以内の政令で定める日、住所変更登記義務関係の改正については公布後5年以内の政令で定める日となっています。

相続で取得した不動産の相続登記と、所有不動産の住所・氏名変更登記は義務化されて罰則規定も設けられましたので、忘れないように行う必要があります。また、自身が不動産を売却したり活用したりする時のためにも、早めに登記はしておきましょう。

(参考文献)

月刊不動産フォーラム21   2021年6月号

この記事を書いた専門家について

吉野 喜博
吉野 喜博相続アドバイザー・不動産コンサルタント
広島県広島市生まれ。
建築の計画・設計・監理、不動産の企画・開発・販売、土地の仕入れ等の業務を経験の後、相続の道へ。
所沢市にて相続勉強会&相談会を毎月開催中。各所で相続セミナーの講師、及び相続相談会の相談員を担当。

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