「遺産分割協議証明書」活用のすすめ

相続アドバイザーの守屋佳昭です。

みなさんの相続財産で、何代にもわたって遺産分割がなされず、放置されたままの不動産はないでしょうか?

このような不動産をこのまま放置していても、さらに将来、相続人が増えてしまい、収拾がつかなくなるのは目に見えています。

今回は裁判所による和解を活用して、相続人13名の間で未分割の不動産を測量・境界確認、分筆登記を経て、遺産分割協議を成立させ、相続登記を実施したのち、代償分割による遺産分割を経て、和解の相手方(第三者)に売却した事例をご紹介します。

このケースでは、裁判所が示した和解条件どおり、和解成立から6ヶ月で売買の決済・引渡しまで無事に行うことができました。

特に、相続人が多い、未分割財産(不動産)である、遺産分割まで時間がない、などのケースでの「遺産分割協議証明書」が役立ちますので、是非ご参考になさってください。

遺産分割協議の背景

「遺産分割協議証明書」の活用をご紹介する前に、前提条件となる背景についてご説明いたします。

そもそも本件の発端は、借地権をめぐる紛争でした。

さらに、当該底地が未分割財産であったことの2つの問題点が背景にありました。

したがって、ひとつには当該裁判での相手方と借地権について民事上の決着(解決)をさせる必要がありました。

他方で、冒頭で述べましたように、当方には未分割財産である土地(底地)を相続人(地主)間でを遺産分割しなければならない必要がありました。

借地権をめぐる係争

借地契約内容の詳細については割愛しますが、地主がTさん(仮名)におそらく70年以上土地を貸していたと推測されます。というのも、原初の文書による契約がない(おそらく口約束での契約でスタートしたため)ので、賃貸借期間の始期がわからないのです。

また、この最新の書面による契約には原状復帰義務の特約があり、満期により終了した暁には、借主であるTさんは、建物を取り壊し、更地にして地主に明け渡すことになっています。

さらに特約で、担保権が行使されれば、Tさんと地主との間の信用が破壊され、その時点で契約は失効することになっています。

いずれにしても、2018年9月で20年の満期となり賃貸借契約は満期で終了になります。ただし、Tさんは満期日の直前にこの家を退去し、身の周りの家財道具とともにこの土地を離れました。

その後、Tさんの代理人弁護士から借地権の更新の請求と銀行から債権譲渡を受けた信用保証協会から抵当権の行使(競売の実施)をする旨の内容証明郵便が同日付で地主側に届きました。

Tさんは、地主に無断で借地上の建物に抵当権を設定していたのです。

さらに数か月後、建物を競落した不動産業者A商事(仮名)を原告、相続人全員(地主)を被告とする訴状が裁判所から届きました。

内容は、「借地非訟調停の申し立て」というものでした。

「借地非訟」とは、借地権者が借地権の更新について地主の承諾に代わる許可を裁判所に求める裁判手続きで、抵当権で入手した借地権(借地権付き建物を入手)についても認められるものです。

借地非訟について詳しくお知りになりたい方は、過去に私が本コラムに投稿した記事をご参照ください。https://sozokusupport.com/4643/

本件において借地権をめぐる民事上の紛争は、後述するように最終的に「和解」という形で決着しました。

次に未分割財産である底地は遺産分割協議により分割することになり、その態様は代償分割という形を取りました。(代償分割については、別の稿で説明する機会を設けます)

未分割財産である底地の分割と課題

すでにお話しした通り、相続人が13名います。

13名は、東京都内に住むもの、近郊の県(神奈川、埼玉、茨城)に住むものもあり、遠隔地とはいえないまでもバラバラでした。しかしながら、幸いにも全員が連絡がとれる状態でしたので、遺産分割協議はできる環境にありました。

それでも13名は大人数で、土地の分筆登記を経て、遺産分割協議を和解成立後6ヶ月で完了することは、ギリギリのタイミングでした。

次にこの土地(底地)の状況は、借地権の去就とも大きな関係を持っていました。

そもそもこの土地については、相続人間では先代が亡くなったのち、2018年9月に借地契約の期間満了により土地を更地で返還してもらい、その後に遺産分割を行う予定でした。ちなみに相続人13名は、当該土地の以外の相続財産(不動産、預金)をすべてまとめて遺産分割協議を行い、遺産分割を行う予定でした。

ただし、遺産分割協議は、相続人が13名と多いこと、相続財産に不動産が多いことから当時から難航することは予想されていました。

むしろ、相続人たちは、個人により温度差はあるものの、借地権が無償で返還されることに楽観的に考えていました。

それが、前述のように競売を通じて、第三者の手に渡り、裁判が進む中で、最終的に借地が返還されるどころか、「和解」で売却することになります。

「和解」の内容 猶予期間は6ヶ月

そもそも「和解」とは、民事紛争における解決手段のひとつで、大きく2つに分かれ、ひとつは裁判によるもの、他方は裁判以外(和解、調停、仲裁等)によるものです。

本件は、当初、「調停」の申し立てからスタートし、途中で借地権の有無を争う「裁判」となり、最終的には「和解」となりました。

本件の「和解」の主な内容は、概ね以下の4点です。

  1. 本件土地の所有権(底地)をXXX円で売り渡すこと
  2. 和解後6か月後に本件土地を分筆登記をすること。(測量・分筆登記等の費用は売り手の負担とする)
  3. 和解後6か月後に本件土地を所有権移転登記をすること。(登記等の費用は買い手の負担とする)
  4. 6か月後に引渡しができないと1日あたりXX円の損害金を支払うこと

以上のように、6ヶ月以内に分筆登記を含めた遺産分割協議を成立させなければならないという時間的な制約と相続人の多さ(13名も、しかも中には遠隔地にばらばらにいること)が最大の課題でした。

遺産分割協議証明書とは

遺産分割協議証明書の説明に入る前に、相続について大まかに概略を説明します。

一般に人がお亡くなりになると、亡くなった方(被相続人)の財産(プラスの財産もマイナスの財産もすべて)は、その方の相続人に承継されます。(いつ、だれが、何を、どれだけ相続するかの基本ルールは民法で定められています)

その承継の仕方は2通りあり、一つには被相続人が生前に書き残した遺言による「遺言相続」と二つ目は遺言がない場合の民法による「法定相続」になります。

遺言があれば、原則、被相続人の生前の意思ですので、遺言通りに承継されます。

前述のように、遺言がない場合には、「法定相続」となり、また、相続人が複数いる場合を「共同相続」といいます。

この場合に、複数の共同相続人の間で相続財産を分割する手続きを「遺産分割」といい、この書類を「遺産分割協議書」(以下、「協議書」)といいます。(「協議書」は、比較的なじみのあるものと思います)

この書類を作成・添付することで、遺産分割協議で成立した内容を記録しておくとともに相続登記をすることができます。

前置きが長くなりましたが、本稿で説明する「遺産分割協議証明書」(以下、「証明書」)は、この「協議書」のいわば、応用形というべきものです。

以下、「証明書」の特徴を「協議書」と対比してご説明します。

遺産分割協議「証明書」と遺産分割「協議書」との相違点

「証明書」も「協議書」も共同相続人間で成立した合意内容を証明するものです。それぞれの効用として、相続財産に不動産がある場合には相続登記ができます。また、自動車、株式、預金の名義変更もできます。

それでは、相違点を説明します。

1.「協議書」は一枚に相続人全員の署名・捺印が必要

「協議書」は一枚の書類に相続人全員の署名・捺印が必要です。相続人が多数で遠隔地に住んでいる場合には、書類を郵送で持ち回りで署名・捺印を取らなければならないので、時間がかかります。

他方で、「証明書」は遺産分割協議の内容を、それぞれの相続人が確認し、間違いがないことを証明したものをいいます。したがって「証明書」は各自一枚ずつ、合計で相続人の数だけ必要です。ただし、持ち回りするする必要はありませんので、比較的早く署名・捺印を取ることができます。

2.「証明書」は相続人が相続する財産の記載のみとする方法もある

「協議書」は一枚の書類にすべての相続財産の記載が必要です。

他方で、「証明書」は、各相続人が自ら相続する財産の記載のみとすることも可能です。ただし、相続財産に不動産がある場合、相続登記をする場合には、書面内容が同一である必要があります。

したがって、「証明書」もすべての遺産分割内容を記載し、相続人全員が同一の内容の書面に署名・捺印をするのが一般的です。

「証明書」で対応される主なケース

どのような場面で遺産分割協議証明書を作成する方が効率がいいでしょうか?

遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の最大の違いは、前述したように、ひとつの書面に署名・捺印する人数です。

協議書はひとつの書面にて全ての相続人の署名が必要ですが、一同に集まって書類を作成する場面では問題ありません。
しかしながら、共同相続人全員が一堂に集まることができないケースでは、協議書を相続人間で郵送で持ちまわして署名・捺印をもらう必要があり、その分時間がかかったり、紛失のリスクがあったりするなど煩雑になります。

以下では、遺産分割協議証明書を利用する方が効率的な場面について詳述致します。

1.相続人が複数いる、遠方にいる場合

相続人が複数いる場合では、「証明書」で対応する方が便利です。特に本件のように代襲相続が生じているケースでは相続人が13名いる場合もあります。相続人が多数いて、遠方に住んでいるとなると、相続人全員で一堂に集まることは大変難しくなります。

そのため、「協議書」を作成する場合は、各相続人に署名押印をもらうために郵便でもちまわすことになります。一つの「協議書」を持ちまわすと、すべての相続人が署名・押印し、完成するまで時間がかかってしまいます。また、署名・押印の際に誤って実印以外のものを使用してしまうと、一人にミスがあっただけで改めて一から作り直す必要が出てきます。

したがってこのような場合には「証明書」を各相続人に送付し、署名押印をして返送してもらう方が効率的です。

2.遺産分割協議成立まで急いでいる場合

本件のように「和解」により売却が決まった場合に、裁判所は売却までの期限を設定するのが普通です。

特に本件は、遺産分割協議の前提条件として相続財産の特定をする必要がありました。具体的には、測量・境界確定、分筆登記です。

これに時間を費やしてしまうと、残された限られた時間内に遺産分割協議を成立させなければなりません。

とてもではありませんが、一つの「協議書」を持ちまわし、すべての相続人が署名・押印していると間に合いません。

そこで本件では、「証明書」を各相続人に速達で一斉に送り、速達の返信用封筒・切手も同封することで、すべての「証明書」を比較的短期間で回収することができました。

本稿のまとめ

皆様の個々の事例について「証明書」の活用については、当然のことながら、サポート、アドバイスを専門家に求めてください。

一人で抱え込んでいては、なかなかうまくいかないと思います。とはいえ、何事もそうですが、自分自身が主体となって動かなければ、専門家といえども助けることはできません。

繰り返しになりますが、特に制約条件が多いほど、自分の持っている能力をフル活用して難局を乗り切る必要があります。そんなときにこそ、専門家の助言には素直に耳を傾ける必要があります。場合によっては、敬意をもって接することは勿論、虚心坦懐に耳の痛い話も伺う機会を設ける、アドバイスの費用をお支払いする、なども検討に入れるべきでしょう。

以上、皆さんの課題解決に役立てていただければ幸いです。

 

参考文献:

相続相談標準ハンドブック 日本法令 奈良恒則共著

民法Ⅳ相続親族 東京大学出版 内田貴

「遺産分割の証明書とは?作成方法について解説」ベリーベスト法律事務所 萩原達也弁護士

 

 

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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