コロナ時代のマンション管理③公共の利益の実現を目指して

相続アドバイザーの守屋佳昭です。

前回まで

前回のブログでは、滞納管理費等への対応につき、法律としての区分所有法と管理組合に負わされた機能としてとして規定についてお話ししました。

滞納管理費等への対応 区分所有法による規定

前回のブログでは、区分所有法上の先取特権により滞納管理費への対応がなされていることを述べました。また、同じく区分所有法59条による競売で、共同利益に反する行為としての滞納管理費の回収ができることを述べました。

この競売請求は、一般的な競売の目的と異なり、債権回収を目的するものではありません。(形式競売)このため区分所有権及び敷地利用権の最低売却価格で滞納管理費を回収できる見込みがない場合でも競売を請求することができます。

また、これらの請求権は一般の債権としての消滅時効にかかることから、管理組合が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から5年、権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年で時効が完成します 。

したがって、裁判上の請求や催告、承認などで時効の完成猶予や更新をしなければ、また消滅時効にかかります。

なお、「催告」があったときは、その時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しません。この「催告」には、何らの形式も要求されておらず、「内容証明郵便による督促」でもよいことになります。ただし、6ヶ月経過後に再度、同様の方法で催告しても、時効の完成猶予の効果はありません。この間に裁判上の請求等をすれば6ヶ月経過しても、判決の確定等までの間、時効は完成しません。その後、判決の確定等があった場合に、そこから新たに時効が進行します。

滞納管理費の措置 管理組合の機能

管理費等はマンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納はそのマンションの資産価値や居住環境に影響します。

また管理組合による滞納管理費の回収は、手間や時間コストなどの回収コストがかかります。
管理組合は、管理費の滞納組合員に対し、督促を行うなど必要な措置を講じなければなりません。

修理管理費等の確実な回収は、適正な管理を行う上で根幹的な事項であり、管理組合の会計への悪影響や他の区分所有者への負担低下等の弊害もあるため、必要な措置を講ずることは管理組合の最も重要な職務の一つです。

また、理事長は、未納の管理費等の請求に関して、理事会の決議により管理組合を代表して訴訟その他の法的措置をすることができます。

共義務違反に対する措置 区分所有法の59条競売とは?

区分所有者が共同利益に反する行為をした、または、するおそれのある場合に、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によっては、その障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、その区分所有権及び敷地利用権の競売を請求できます。

この競売請求は一般的な競売の目的とは異なり、債権の回収を目的とするものではありません。(形式競売)

そのため、区分所有権及び敷地利用権の最低売却価格で滞納管理費を回収できる見込みがない場合でも、区分所有法第59条の規定による競売を請求することができます

競売請求は、義務違反者である区分所有者に対して、あらかじめ弁明の機会を付与した上で、集会の特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)を経て、必ず訴訟上で請求しなければなりません。

マンション管理の「免疫」機能とは?

現在、世界中で猛威をふるっているコロナ禍は、14世紀にヨーロッパ全域で大流行したペストに対比して捉えることができると思います。

ペストを機に西欧諸国は国境線での検疫体制を整備するようになり、それが近代国家の確立に寄与しました。また感染症に対する自己防衛から生まれてきた近代国家は、いわば「免疫システム」を備えているといえます。国家や教会など「共同体」(コミュニティー)が示す免疫作用と、生命体に生じる免疫反応との間には共通するものがあります。

このことを証明するように、「コミュニティー」と「免疫」との語源には共通する概念を示す「munus」という言葉があります。

英語の「コミュニティー」(Community)の語源と「免疫」(Immunity)の語源は、いずれも「義務」「負担」「奉仕」などを意味するラテン語「munus」から派生しています。munusの前に否定を表すinがついていることからImmunity(免疫)とは義務、負担、奉仕の責めを解かれている(免責されている)という意味になります。つまり共同体は「義務」を共有する者たちの集まりであり、免疫とはその「義務」を免除され、かつ、共同体から放追されているということです。

かたや、感染症に対する免疫は体の外部から侵入してくる異物を探知・捕捉して、体外へ排除しようとする作用を意味します。
国家などの大規模な共同体でも、例えば大量の移民のような形で外部から「異物」が入り込んでくると、血統や文化の面でその影響が拡大しないように包囲し、最終的には排除しようとする作用が生じることがあります。

この作用をマンションという共同体(コミュニティー)に置き換えると、管理費の滞納など「共同の利益」に反する行為には、督促、少額訴訟、果ては競売という「免疫」作用が働き、最終的にはマンションから追い出す権能がマンション関連の法律に制度的に組み込まれている、といえます。

本稿のまとめ

古代ギリシャでは、民主政を完成させる段階で、非合法的手段で政権を簒奪した独裁者(僭主)を多数決で排除する目的で「陶片追放」という制度を作りました。陶片(オストラコン)に追放したい者の名前を書いて、一定数の多数で国外に追放することができる投票制度です。

確かに、個人の過度の権力を抑制するために効果があり、ある意味、民主的な制度であったと思います。しかしながら、成熟した現代の民主政の下で、単なる多数決の論理で、個人を排除していいものでしょうか?

また、上述の「コミュニティー」と「免疫」との話の中で、マンションというコミュニティーで管理費の滞納など「共同の利益」に反する行為があった場合、その「免疫」作用を多数決の論理で機能させてもいいものでしょうか?

前回、前々回のブログで述べたように、滞納等に対する債権者の権利は、手厚く保護されてきたきました。

片や、昨今のコロナ禍では、この先進国といわれている日本で、傷ついた弱者が置き去りにされている姿を露呈しました。

私には、コロナ禍という未曽有の災厄で傷ついた低所得者、シングルマザー、貧困家庭などの社会的弱者を、たとえ法律や規約の定めがあったとしても多数による少数の排除として処理することが正しいとは考えられません。

確かに、実際の運用面の問題ではあります。

管理費の滞納など「共同の利益」に反する行為をした人が競売によりマンションから追い出されるような運用をマンションの管理組合が実際にするかという問題です。実際には、管理組合の運営そのものが機能していない局面もあると思います。

また、政府等による財政支援等により救済すべき、という議論もあるかと思います。

しかしながら、社会全体の福祉という観点から、マンション関連法規の再整備などを検討することが必要ではないでしょうか?

 

参考文献)

青木世界史B講義の実況中継① 青木裕司 語学春秋社

世界史の教科書 山崎圭一 SBクリエイティブ

民主主義とは何か 宇野重規 講談社現代新書

定点観測第2弾!新型コロナウイルスと私たちの社会「感染症と格差」仲正昌樹 論創社

マンション管理士速習テキスト 平柳将人 TAC出版

 

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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