「妻に全財産を相続させる」旨の遺言          民法(相続法)改正で注意!!

子供のいないご夫婦の場合、夫としては遺される妻に二人で築いた財産を全て相続させて、妻の老後の生活の安定を願う人が多いのではないでしょうか。

子供のいないご夫婦で夫のご両親も既に他界している場合、亡くなった夫(被相続人)に兄弟姉妹がいれば、妻と兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥、姪)が相続人なります。 この場合、遺言が無いと妻と兄弟姉妹(甥、姪)で遺産分割協議をしないと預貯金の解約も不動産の移転登記もできません。

妻と夫の兄弟姉妹が相続人の場合、法定相続分は妻3/4、兄弟姉妹1/4になります。 遺産分割協議の話し合いで、夫の兄弟姉妹が1/4の法定相続分を主張したら、妻は全財産を取得することが困難になります。

そこで夫は、「妻に全財産を相続させる」旨の遺言を書きます。 遺言は法定相続分や遺産分割協議に優先するので、妻に全財産を相続させることができます。

遺言の場合、遺留分と言って亡くなった人の配偶者や子、直系尊属(父母等)に対して留保された相続財産の割合が有りますが、兄弟姉妹には遺留分が有りません。 したがって相続人が妻と兄弟姉妹の場合は、夫が遺言を書いておけば兄弟姉妹から遺留分を請求されることは無いので、妻に全財産を渡すことができます。

民法の改正前は私ども相続アドバイザーも、子供がいないご夫婦に対して、「妻に全財産を相続させる旨の遺言を書いておけばご主人の兄弟姉妹には遺留分が無いので、奥さんに全財産を渡すことができますよ。」と言っていました。

しかし、2019年7月の民法(相続法)改正で気を付けなければいけないことが出てきました。 民法の改正によって相続登記の順番によっては、遺言が優先しないケースが出ることが想定されるようになったからです。

相続登記とは、被相続人の不動産の所有名義を相続人の取得に応じて相続人の名義に変更する登記のことです。 登記すれば不動産の所有権を対外的に主張できます。 また元々民法改正前から、遺言や遺産分割協議の有無にかかわらず、他の相続人の了解を得ること無く単独で、自分の法定相続分を共有で登記することができました。

しかし、妻に全財産を相続させる遺言が有るにもかかわらず、兄弟姉妹が先に自分の法定相続分1/4を共有で相続登記をし、その共有持ち分を第三者に売却したとしても、妻が持ち分を買った第三者を訴えれば勝訴して、不動産全部を自分の物にすることができました。 相続させる旨の遺言等により承継された財産については、法定相続分を超える部分についても対抗要件(登記等)無しで第三者に主張できると最高裁判所が判断していたからです。

しかし改正民法(相続法)は、この最高裁判所の判断とは異なる内容を規定しました。 改正民法では、相続による権利の承継は、遺産の分割協議によるものであれ、遺贈によるものであれ、相続させる旨の遺言に基づくものであれ、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗する(主張する)ことができないとしました。

したがって先程のケースで、兄弟姉妹が先に不動産の相続登記をし、その共有持ち分を第三者に売却し第三者が所有権移転登記をした場合、妻は「全財産を妻に相続させる」旨の遺言が有ったとしても第三者に対抗できないので、第三者から1/4の共有持ち分を取り戻せないことになります。

この問題を解決するには、遺言が有ったとしても、他の相続人より先に不動産の全部を相続する旨の登記をするしかありません。 このあたりの事が分かっている人はまだ多くはないでしょうが、知っていると知らないでは大きな違いが出てくるので注意が必要です。

遺言を書く場合も、自筆証書遺言の場合は検認という手続きを家庭裁判所でやらなければいけないので、登記するまでかなり日数がかかります。 先程のケースのように、相続登記を迅速に行う必要が有るときは、検認手続きが不要な公正証書遺言や自筆証書遺言の法務局保管制度を使うべきでしょう。 また、遺言執行者になっている人は速やかに登記しないと、責任を問われる可能性が有ります。

相続のことはいろいろ注意しなければ重大な結果を招くことが有りますので、できるだけ相続の専門家に相談されることをお勧めします。

 

参考文献:

日本経済新聞2019年10月26日朝刊「自宅相続、崩れた『遺言優先』」

江口正夫「民法改正と相続対策の重要論点」

 

 

この記事を書いた専門家について

吉野 喜博
吉野 喜博相続アドバイザー・不動産コンサルタント
広島県広島市生まれ。
建築の計画・設計・監理、不動産の企画・開発・販売、土地の仕入れ等の業務を経験の後、相続の道へ。
所沢市にて相続勉強会&相談会を毎月開催中。各所で相続セミナーの講師、及び相続相談会の相談員を担当。

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