不動産を売買する時のために知っておきたい「契約不適合責任」とは
2020年4月1日から施行された改正民法では、TPPに加盟することなども見据えて、アメリカを中心に採用されている契約を重視した民法に改正されました。
それまでの「瑕疵(かし)担保責任」も「契約不適合責任」に変更になりました。
契約不適合責任になって具体的にどう変わり、売主として何に注意するか、トラブルを防ぐためにどうすれば良いか、について今回は書いてみます。
また、全国には不動産業者(宅地建物取引業者)が12万社超ありますが、その内10万社弱が加入している全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の不動産売買契約書の書式の内、売主が一般個人の場合の書式に「契約不適合責任」がどのように反映されているかについても見てみます。
民法改正前に定められていた「瑕疵(かし)担保責任」とは、売買する家や土地に「隠れた瑕疵」が有った場合、売主が負う責任のことでした。
「瑕疵」とは欠陥や不具合という意味ですが、「隠れた瑕疵」とは、不動産取引においては、購入段階では気付かず、実際に住み始めてから発見されるような欠陥や不具合のことをいいます。
瑕疵には「物理的瑕疵」、「法律的瑕疵」、「心理的瑕疵」、「環境的瑕疵」などが有り、特に、心理的瑕疵や環境的瑕疵は主観的なので、どこからどこまでが瑕疵なのか不明瞭で、売主や不動産会社にとって頭を悩ます要因でした。
民法改正後は「瑕疵」という言葉は使われなくなりましたが、瑕疵が有る物件は契約不適合になる可能性が非常に高いので、瑕疵が有る場合は契約書に明記して契約内容に適合しておくことが大変重要になってきています。
また、改正前の「瑕疵担保責任」も改正後の「契約不適合責任」も強行規定ではなく任意規定です。 したがって当事者が合意すれば、民法の規定の内容を変更して契約しても有効となります。
今回は触れませんが、売主が宅地建物取引業者や事業者の場合、宅地建物取引業法や住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)、消費者契約法などの強行規定の適用により、個人買主保護のため自由に全てを変更することはできません。 強行規定とは、当事者間の合意の如何に関わらず適用される規定のことをいい、強行規定に反する契約内容は無効となります。
民法改正後の「契約不適合責任」とは、「売買の目的物が種類、品質または数量に関して、契約の内容に適合しない(=契約不適合)とき、売主が負う責任」です。 契約の内容と異なるものを売った場合は「契約不適合」にあたり、売主は責任を問われることになります。
全宅連の契約書では、契約不適合の対象として種類と品質だけとしています。 不動産取引では別条項で公簿売買か実測売買とするので、契約不適合の対象から数量を除外しているようです。
【1】主な3つの変更点
〔1〕契約の内容に適合しているかどうか
民法改正前の瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」に対して、売主が負う責任でした。
改正後の契約不適合責任は「隠れた瑕疵かどうか」は問題ではなく、「契約の内容は何か」「目的物が契約内容に適合しているかどうか」が問われることになりました。
例えば、土壌汚染がある土地であっても、そこに建築する建物が倉庫で、土壌汚染があっても構わない旨を買主が同意し契約書に明記していれば、その土地は「契約内容に適合している」ので、売主は責任を問われないことになります。
〔2〕買主が行使できる権利
瑕疵担保責任における買主の権利は、「損害賠償請求権」と「契約の解除権」の2つでした。
契約不適合責任ではこれらの2つに加えて「追完請求権」と「代金減額請求権」が追加され、行使できる権利が4つになりました。
買主側からすると責任追及の方法が増えて有利になったといえますが、売主側からすると責任の範囲が広くなり、負担が重くなったといえます。
〔3〕買主が権利を行使できる期間
瑕疵担保責任においては、損害賠償請求などの権利は「買主が隠れた瑕疵を知った時から1年以内に行使しなければならない」と定められていました。
一方、契約不適合責任では、「買主は契約不適合が有ることを知った時から1年以内に通知すればよい」とされています。 売主に通知しておけば1年以上経ってから権利行使することも可能となりました。 買主が権利行使できる条件が緩和され、期間が延びたといえます。
ただし実務上では、売主の負担を少なくし契約の早期安定を図るため、双方が合意すれば通知期間を、物件引渡し後3ヶ月以内や6ヶ月以内とすることが多いようです。
【2】買主が行使できる4つの権利
〔1〕追完請求権
追完請求とは、売買の目的物が契約内容に適合しないものである場合、契約どおりのものを請求することです。 簡単に言うと「直してください」という請求です。 契約内容と異なるものを売った場合、売主に落ち度がなくても買主は追完請求することができます。
買主は追完請求として、①修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡し、のいずれかを請求できます。
全宅連の契約書では、家や土地などの不動産は、工業製品などと違って代わりが利かないもの(=特定物)、なので、追完方法として修補だけを記載しています。
〔2〕代金減額請求権
買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないとき、または履行の追完が不可能のときは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。 目的物に問題があるなら、その見合わない部分は代金を減らして欲しいという請求です。
全宅連の契約書では、代金減額請求について明示的に除外していませんが、条項として記載していません。
代金減額の範囲をどこまでにするか難しいということか、損害賠償請求で対応できると考えているのか、または民法を適用して対応すれば良いと考えているのか、その辺りについて私はよく分かりません。
それと、代金減額請求すると買主は契約の効力を認めていることになるため、契約解除と代金減額請求は両立しえないという考えがあります。 そのため安易に代金減額請求すると買主は契約解除できなくなってしまうことから、個人間売買においては代金減額請求権の条項は省かれたのかも知れません。
〔3〕損害賠償請求権
損害賠償請求権は、損害を受けたことに対して金銭的な補償を求める権利です。
損害賠償請求は、追完請求および代金減額請求、契約解除と共にすることができます。
売主に故意または過失が有れば(帰責事由が有れば)、買主は売主に損害賠償請求ができますが、売主に故意・過失がなければ買主は損害賠償請求をすることができません。
売主が負う損害賠償の範囲は「信頼利益」のみではなく、「履行利益」まで含むとされています。 改正前は信頼利益のみでしたので、損害賠償の範囲が広がりました。
信頼利益・・・契約が有効だと信頼したことによって、買主が失った利益や費用。 例)契約のための調査費用・準備費用・登記費用など
履行利益・・・契約が約束通りに履行されれば、その利用や転売により買主が得られたであろう利益。 例)転売利益・営業利益など
〔4〕契約解除権
①催告解除
相当の期間を定めてその履行(追完請求)の催告をし、その期間内に履行がないときは契約を解除できます。
ただし、その欠陥が軽微なものである場合、解除は認められません。
全宅連の契約書では、契約不適合により契約の目的が達せられないときに限り解除できるとしています。
解除したとき買主に損害がある場合は、売主に責任がない時を除き、買主は損害賠償を請求できますが、契約違反による固定的な損害賠償の予約(売買代金の20%とか10%とする違約金の定め)は適用されないとしています。
②無催告解除
契約の目的が達成できないなどの場合は、買主は催告無しで解除することも可能です。
全宅連の契約書には記載が有りませんが、民法の規定に従うということでしょう。
【3】契約不適合責任のトラブルを防ぐために、売主がやっておくべきこと
〔1〕契約書等に家や土地の状態を細かく明記すること
契約不適合責任では「契約の内容に適合しているか」が重要になります。
従って、買主から「契約にない欠陥や不具合がある」と責任追及されないように、家や土地の状況、特に欠陥・不具合について、「重要事項説明書や売買契約書、物件状況確認書(告知書)、付帯設備表にしっかり書き込む」ということに尽きます。 契約書の特記欄にも、詳細に状況や不具合等について記載しておきましょう。 欠陥や不具合等が契約書に記載してあれば契約不適合にならないので、責任を問われません。
そのためには契約書に記載する前に、そもそも家や土地がどのような状態であるかをしっかりと把握する必要があります。
しかし、不動産のプロでない方にとっては、不動産のどこが欠陥でどこが不具合な箇所として責任を追及されるのか、なかなか分からないと思います。 あとあとのトラブルを防いだり、追完請求、損害賠償請求をされないためにも、ぜひ不動産の専門家に不動産の状況を見てもらうことをお勧めします。
中古住宅を売却する場合などには、インスペクション(既存住宅状況調査)を実施するのもお勧めします。
インスペクションとは、建築士などの専門家による目視や計測等による建物状況調査のことです。 インスペクションに合格しておくと、建物に大きな欠陥がないことが分かるため、安心して売却することができます。
〔2〕売主の責任を免除する「免責特約」を付ける方法もある
契約不適合責任は任意規定です。
したがって、売主と買主が合意すれば、契約内容に「契約不適合責任を一部または全部について負わない」という「免責特約」を付けることができます。
例えば、買主が土地建物を購入したあと建物は使用せず解体・撤去するような場合、「売主は建物および設備については、契約不適合責任を一切負わない。」という免責特約を付けることも可能です。
ただし売主は、不適合があることを知りながら買主に告げなかった場合、免責特約は適用されず、売主は責任を負わなければなりません。
〔3〕瑕疵担保保険を利用
契約不適合責任では、最初に追完請求が来るのが基本です。
追完請求の1つである「修補請求」がかなりの部分を占めると思われます。
「既存住宅売買瑕疵保険(瑕疵担保保険)」を付保することにより、売却した家に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、保険金で修理費用をカバーすることができます。 売主としては安心して物件を売ることができます。
【3】まとめ
民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わったことで、買主にとっては行使できる権利が増えた一方、売主にとっては責任や負担が重くなったといえます。
「契約不適合責任」では、「契約の内容に適合しているか」がポイントになります。 売却物件の状況や想定されるリスクをよく把握し、それに契約内容を一致させて売却することが重要です。
買主とのトラブルを防ぐためには、家や土地に欠陥・不具合があれば契約書類に必ず記載するのは勿論のこと、インスペクションや瑕疵担保保険を活用したり、免責特約を付けたりして、しっかり対策をとることが非常に大切です。
どこが契約不適合になるか分からない方、対策の立て方が分からない方は、ぜひ専門家にご相談ください。
参考文献:
1)「売主の契約不適合責任に関する契約条項(その1)」 立川正雄 月刊不動産フォーラム21 2021年3月号
2)「改正民法に対応する売買契約書の基本を学ぶ ~逐条詳細解説~」 渡辺晋 不動産流通推進センター フォローアップ研修
3)「瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いとは?」 不動産鑑定事務所グロープロフィット
4)「民法改正~契約不適合責任とは? 瑕疵担保責任との違いや注意点」 高く家を売る研究
この記事を書いた専門家について
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広島県広島市生まれ。
建築の計画・設計・監理、不動産の企画・開発・販売、土地の仕入れ等の業務を経験の後、相続の道へ。
所沢市にて相続勉強会&相談会を毎月開催中。各所で相続セミナーの講師、及び相続相談会の相談員を担当。
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