押えておきたい相続財産の分け方の基準 相続基礎知識②

相続アドバイザーの守屋佳昭です。
今回は相続基礎知識の第2回目を書いてみたいと思います。

前回は①そもそも相続とは何か?②誰が相続人になるのか?③相続の仕方とは?について考察しました。今回は相続財産の分け方を考察します。

相続財産の分け方って規則があるの?

相続の分け方の基準とは、法定相続分で分けること?あるいは公平に、平等に分けること?、親の生前の意思によるもの?などと認識している人は多いと思います。

実は民法、判例等により定め、解釈されるところはこれを明確に定めています。

相続財産の分け方の基準とは

まずは基本的な考え方ですが、私たちは相続というと「もらう」ことと考えがちではないでしょうか?ご両親の遺した不動産や金融資産を「もらう」ことは有難いことです。

但し、ご両親の築いた財産は誰のものでしょうか?ご両親が築いた財産はご両親が主役となって子供たちに分け与えるものです。

決して「もらう」側が主役ではありませんね。

相続では、法律的に有効な遺言書がある場合、財産の分け方(遺産分割)は原則として遺言どおりに行われます。「遺す」方が主役です。

遺言書がない場合、あるいは遺言書が法律的に有効でない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、全員の合意で遺産分割を行うことになります。

ここではまず、遺産分割の主役は「もらう」人ではなく、「遺す」人であることを押さえておいてください。

財産を分けることについて法律ではどのように定めているの?

民法906条にかなり具体的かつ明確に記されています。原文はやや難しい表現なので、口語訳を抜粋します。

「遺産分割は、個々の遺産の種類・種類・性質(たとえば遺産が農地であるか、貸家であるか、権利が借家権であるか、預金であるかなど)や各相続人の年齢・職業・心身の状態、生活の状況、性別、結婚の有無やその他相続される人の日ごろの意思など一切の事情を考えて、公平かつ適切に行わなければならない」

つまり、遺産分割は亡くなった方の意思、財産、相続人の状況等一切を考慮して自由に決めてください、と書いてあるのです。

決して民法900条に定める「法定相続分」で分けなさいとは書いていないのです。

なぜ民法900条「法定相続分」の規定が必要なの?

先に「遺言書がない場合、あるいは遺言書が法律的に有効でない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、全員の合意で遺産分割を行うことになります」と書きました。

ここで遺産分割は、相続人全員で話し合い、全員の意思の合致(合意)で成立となります。多数決では成立しません。

遺産分割協議で話し合いがつかないときは、家庭裁判所に調停・審判を申し立てて遺産分割をします。

これは私見ですが、ここで裁判所が調停するにしても、審判を下すにしても分割のための基準・指標がなければ裁判所にとって不都合です。したがって裁判所の実務面で民法900条で法定相続分を定め、いわば最後の手段、伝家の宝刀として遺産を分割することにするというのが私の見立てですが、言いすぎでしょうか?

但し、法律の構造として、まずは前段としては相続の当事者が遺産分割について亡くなった方の意思、財産、相続人の状況等一切を考慮して決めなさい、とかなり自由な裁量を許しています。次に、それでも当事者間の協議が調わず、紛争になってしまったら仕方がないので法定相続分に従って分ける、ということです。

裁判所に訴えても結論は法定相続分によって分けるしかないの?

裁判所も法律に書いてある以上、それ以外の選択肢はありません。当事者にとって裁判所による調停・審判は、紛糾しすぎて当事者間の話し合いもできない状態になってしまった最後の手段ということになります。

最高裁判所も平成7年7月5日の裁判で、法定相続分の規定について次のように言っています。

「(我が国の相続制度を定める民法の規定を概観して明らかなように、民法は社会情勢の変化等に応じて改正され、また被相続人の財産の承継につき多角的に定めを置いているのであって、)民法900条の法定相続分の定めは、その一つにすぎず、法定相続分の通りに相続が行わなければならない旨を定めたものではない。すなわち法定相続分の定めは、遺言による相続分の指定等がない場合において、補充的に機能する規定である

具体的にはどのようにすれば良いの?

残念ながら、絶対に問題がないという方法は無い、というのが実情です。ただし、ご両親がお元気なうちに法律的に有効な遺言を書いていただくこと、そしてその内容を子供たち全員に親として納得いくまで話していただくことが最も有効と思います。

但し、遺言も一つ重要な注意点があります。

遺留分を侵す遺言を書かないこと

遺留分とは、民法が規定した、被相続人(ご両親)が相続人に最低限残さなければならない遺産の最低部分です。遺言に遺留分を持つ相続人の遺留分を侵害している場合、その相続人は「遺留分減殺請求権」を行使して侵害された遺留分を取り戻すことができます。この遺留分は何人も侵すことのできない相続人の権利で、たとえば相続人のひとりから遺留分を主張された場合には他の相続人は100%負けます。時効も1年以内ということで、遺留分を侵す遺言が発見されたら即、兄弟の諍いが始まります。裁判沙汰になってしまうと兄弟姉妹の絆は失われ、二度と戻ることはありません。勿論、それで納得していれば何の問題も起こりません。遺留分を侵す遺言は書かないほうが無難です。あまりにリスクが高すぎます。

次回、相続基礎知識③では、遺言についてもう少し深く考察します。

参考文献

  1. 相続財産は不平等に分けなさい 成島祐一
  2. the相続きほんの基 野口賢次
  3. 口語民法 高梨公之

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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