相続手続きを円滑に進めるために(その2)

自筆証書遺言の方式②日付

自筆証書遺言では、証人も立会人もいないため、日付の自書は不可欠です。また、日付は、遺言能力の存否判断や、遺言書が複数ある場合における遺言書の先後に関する判断をするうえでも重要です。それゆえ、日付については、年月日まで客観的に特定できるように記載しなければいけません。

そして日付は、遺言書全部を完成した日を表示するものでなければならず遺言証書に記載されなければ無効となります。たとえば証書自体には記載がなく証書を入れた封筒に記載があったとしても、証書と封筒とが物理的に一体の遺言書とみられる形態でなければ、その遺言は日付の記載がないゆえ無効です。この点に関しては、遺言書が数葉にわたる場合でも、1通の遺言書として作成されているときは、日付の記載は1葉にされれば足りるものとされています。
最判昭36(1961)・6・22 民集15巻68号1622頁

【判例】
⒈ 特定の日付
「昭和四拾壱年七月吉日」では日の特定ができないので、日付を欠くものとして遺言は無効である。
最判昭54(1979)・5・31 民集33巻4号445頁

年月日が特定し得る記載でなければならないので、年月のみの記載では要件を満たさない。
東京地判平26(2014)・4・25金法1999号194頁

2.事実と異なる日付
遺言書のうち日付以外の部分を記載し、署名して印を押し、その8日後に当日の日付を記載して遺言書を完成させた場合には、当該遺言は、特段の事情のない限り、その日付が記載された日に成立した遺言として有効である。
最判昭52(1977)・4・19家月29巻10号132頁

3.「昭和48年」と書くべきところを「昭和28年」と書いた事例。
遺言に記載された日付が事実の作成日付と相違しても、その誤記であることおよび真実の作成の日付が、遺言書の記載その他から容易に判明する場合は、日付の誤りは遺言を無効としない。
最判昭52(1977)・11・21家月30巻4号91頁

4.「正和」に記載を「昭和」として有効とした事例。
大阪高判昭60(1985)・12・11判時1185号115頁

5.「平成二千年一月十日」を「西暦2000年=平成12年」として有効とした事例
大阪地判平18(2006)・8・29判夕1235号282頁

自筆証書遺言の方式③署名

署名は遺言者を特定するものであるから、戸籍上の指名でなくても、通称・雅号・
ペンネームでもよいし、氏と名のいずれか一方しか書かなくても遺言者が特定できるものであればよい。(ただし、戸籍に記載されている通りに氏名を書くのが無難です。)
署名は、遺言証書(または物理的にこれと一体とみられるもの)にされなければならない。
この点に関して、遺言書が数葉にわたる場合でも、1通の遺言書として作成されているときは、署名は1葉にされれば足りる。
最判36・6・22民集15巻6号1622頁

【判例】
氏名の自書
「をや治郎兵衛」(「親の治郎兵衛」の意)とだけ記載した事案で、遺言の内容その他
から遺言者が特定できる場合には、氏または名を自書するので十分であるとして、こ
れを氏名の自書として有効とした。
大判大4(1915)・7・3民録21輯1176頁

以上のことから日付、遺言者が特定できれば遺言書が有効となったケースもあります
が日付は年月日、署名は戸籍に記載されている通りに正確に自書することをお勧め
します。

この記事を書いた専門家について

松岡和也
松岡和也行政書士
1959年神奈川県中郡大磯町生まれ。大学卒業後、岐村コンピューター会計事務所所長代理を経て独立。
遺言書の起案作成、相続財産や相続人の調査、遺産分割協議書の作成など相続に関する業務を行っています

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