預けて安心!自筆証書遺言【その3】
【その1】でも書きましたが遺言書が遺言書保管所(法務局)で保管されても遺言書の有効無効を判断するのは裁判所の仕事ですので無効にならないように民法968条でどのようなことが定められているのかを今回は説明します。
- 作成の基本
自筆証書遺言を作成するには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。
(字を書けない人は、公正証書で遺言書を作成することになります)
法改正により、平成31年1月13日以降に作成される遺言書については、「財産目録」については自書によらなくてもよくなりました。
- 相続財産の目録とは
たとえば「すべての財産を妻○○(昭和〇年〇月〇日)に相続させる」とする内容の遺言書であれば、相続財産の目録は不要かもしれませんが、相続財産の内容を明確にしておきたい場合などは、一覧として目録をつくり、目録を遺言書の一部にすることがあります。
注意点としては
・遺言書本体とは別の紙に作成する
・パソコン作成、登記事項証明書の写し、通帳の写しでもよい
・各頁に署名押印する
- 目録の作成
不動産については、登記事項証明書を取得し、土地は「所在、地番、地目及び地積」を記載し、建物は「所在、家屋番号、種類、構造及び床面積」を記載します。
預貯金については、ゆうちょ銀行は「銀行名、貯金種、記号番号、口座名義人」、その他の銀行の預金については「銀行名、支店名、口座種類、口座番号、口座名義人」などを記載します。
株式については、非上場のものであれば「会社名、本店、株式の種類、株式数」、上場株の場合はそれ以外にも口座のある証券会社名、支店名、口座番号なども併記して特定するとよいでしょう。
- 目録への署名押印
自書によらない形式で相続財産の目録を作成した場合、各頁に署名し、印を押さなければならないとされています。また、目録が両面にある場合には、その両面に署名押印が必要ですが法務局に保管申請する遺言書は「片面のみの記載」とされていますので目録についても片面のみで記載しましょう。
使用する印鑑は、実印である必要はありませんが遺言書本文と目録が一体であることを明確にするために本文に用いた印鑑と同じ印鑑を用いるとよいでしょう。スタンプ印やシャチハタは避けてください。
- 添え手でも「自書」の要件を満たす三つの要件
病気等の事情で、一人でうまく文字を書けない場合は、他人の添え手によって遺言書を作成する人もいるでしょう。この場合、下記の三つの要件がそろえば、「自書」の要件は満たすとされています。
- 遺言者が遺言書作成時に自書能力を有していること
- 添え手が、単に始筆若しくは改行のため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまること
- 添え手をした他人の意思が介入した形跡のないこと
- 日付・氏名の記載
前の遺言が後の遺言と抵触する場合、内容が抵触する部分については後のものが有効であるため、たとえば「〇年〇月吉日」とした日が特定できない遺言書は無効とされた事例があり法務局では保管してもらえませんので日付は、年月日を明確に記載しましょう。
また、氏名においても遺言者本人と特定できればよいという考えから、通称などでも有効とされた事例がありますが法務局での遺言書保管制度を利用する場合、保管申請時に提出する添付書類の内容と合致しないため保管してもらえない可能性がありますので日本国籍者であれば戸籍上の氏と名を記載しましょう。
- 押印
実印である必要はありません。認印や指印でよいとされていますがスタンプ印やシャチハタは避けてください。
遺言書の記載例
①相続人に遺産を「相続させる」と記載する遺言
遺産を相続人に「相続させる」と記載された遺言書の解釈の仕方については、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきとされました。つまり遺産分割協議などがなくても、その相続財産は指定された相続人に承継されることになります。
この場合、相続させる相手が推定相続人(相続人になる者)であることを確認しましょう。相続人以外に「相続させる」と記載した場合は遺贈の効力が生じると考えられますが、相手が相続人になる者かどうか、確認してから遺言書を作成してください。
②相続人以外への遺贈
遺言書で、推定相続人以外の者に財産を与える旨を記載する際は「遺贈する」と書きます。推定相続人以外の者には親族も含み、たとえば子がいる遺言者が孫に財産を与えたい場合は、「遺贈する」と記載します。
③推定相続人とは
相続が開始したときに相続人となるべき者を指します。子がいる場合は子が推定相続人となり、親が健在だとしても、第一順位の相続人である子がいる以上は、子が推定相続人となり親はなりません。
④遺贈は2種類
遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類があり
特定遺贈とは特定の財産だけを与えることで、他のプラスの財産や借金などのマイナス財産は承継されません。
包括遺贈とは全部または割合を決めて承継させる遺贈の仕方をいい、相続人と同じような立場になるため、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有すると規定されています。
⑤予備的遺言
「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」(民法994条1項)と定められています。たとえば遺言で「甲に遺贈する」としたものの、遺言者よりも先に甲が死亡した場合は、甲の相続人がその受遺者の立場を引き継ぐわけではないのです。
上記のような事態に対応するために、受遺者になるはずの者又は相続させるとした相続人が、遺言者より先に又は同時に死亡した場合に、誰が財産を承継するのかを遺言書作成時に指定しておくことをおすすめします。これを「予備的遺言」といいます。
⑥相続分の指定
遺言書で、推定相続人に財産を与える場合は、「相続させる」旨の遺言書によることが実務上は多いですが、「相続分の指定」を行うことも可能です。
「相続させる」と「相続分の指定」との違いは、相続させる旨の遺言は遺産分割方法の指定と理解され相続人間で遺産分割を行う必要はありませんが、相続分の指定は指定相続分に基づき、相続人間で遺産の分割を行う必要があります。
⑦遺言執行者の指定
遺言執行者の指定は遺言で行います(民法1006条1項)。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。遺言者が死亡した後に遺言の内容を実現する役割を担う者です、遺言書のとおりになるように、「遺言執行者」を指定しておくとよいでしょう。
⑧遺留分を考慮する
遺留分は、相続人のうち兄弟姉妹以外の者に認められた「最低限の相続分」といえるものです。この遺留分を侵害された者は、認められた額に達するまで、受遺者等に金銭の請求をすることが可能です。遺言者の死後、相続人間でトラブルになりそうかどうかを考えて、遺言の記載内容を慎重に検討してください。
この記事を書いた専門家について
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1959年神奈川県中郡大磯町生まれ。大学卒業後、岐村コンピューター会計事務所所長代理を経て独立。
遺言書の起案作成、相続財産や相続人の調査、遺産分割協議書の作成など相続に関する業務を行っています
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