空き家、所有者不明土地問題について①

相続アドバイザーの守屋佳昭です。
最近、新聞等で空き家、所有者不明土地の記事をよく目にされることと思います。
確かに空き家、所有者不明土地は多くの社会問題となる厄介な問題です。(これを専門家は「外部不経済」と呼びます)
しかしながら私はこの問題を放置してきた政府の無作為、無責任が根本原因にあると考えています。

所有者不明土地問題とは?

政府もこれ以上放置できず、オリンピック後、団塊の世代が75歳になる時代を見据えて盛んにアドバルーンを上げていると思えてなりません。
たとえばつい最近でも日経新聞に次の記事が掲載されていました。
(①空き家「予備軍」東名阪330万戸(日経 2018年6月23日)、②所有者不明土地権利放棄で打開(日経 2018年6月26日))
記事の説明をします。(私の解釈も含みますのでご了承ください)
①の記事は既に地方で顕在化している空き家問題が三大都市圏にも波及してくるという記事です。
これは戦後の復興期、地方から首都圏へ集団就職などで大量の労働力が移動したことが背景にあります。
地方から出てきた若者は都会で仕事をし、結婚し、ベビーブームが起こりました。
いわゆる団塊の世代の誕生です。
その間、住宅公団などが住宅を大量に供給しました。
その後のマンションブームでたとえば東京まで1時間通勤圏内の郊外に新築のマンションが林立することになりました。
また銀行は住宅ローンで新規の住宅購入を促進しました。

いまや団塊の世代の子供たちは既に巣立って都心の賃貸マンションなどに住み、親の元に帰ってきません。
親の住宅の相続も面倒で、経済的にも負担になるだけなので空き家になる可能性が高いということが書いてあります。
人口減少と高齢化も相まって問題をますます複雑化していますね。

②の記事は全国の所有者不明土地の合計が既に九州の面積より大きく、今後放置すれば北海道に匹敵する広さに拡大するので、今後は土地の放棄を認める動きがあるという記事です。
そもそも所有権の登記は義務ではありません。
第三者と所有権を争ったときに登記を備えてある方が勝ちます。(これを「対抗要件」といいます)
したがって相続などで所有権の争いが想定されない場合には、相続人が費用や手間をかけてまで登記をする動機を感じないのです。
また現在の法律ではたとえば土地だけ一部の財産を放棄することはできません。
放棄をするならば、他の財産を含め全ての財産を放棄することになります。
放棄は単独でもできますが、分割協議の中で「放棄します」と言っただけでは無効で、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所に申述しないと認められません。
仮に放棄が認められれば、他の相続人に権利が移りますが、他の相続人に黙って放棄することは身内の争議の種になりかねませんね。
それでは全ての相続人が放棄すれば、土地を「捨てる」ことができるでしょうか?
答えは「否」です。
全ての相続人が放棄を認められれば相続財産の管理人が選任され、債権者への弁済、特別縁故者への財産分与を経て、最終的には国庫に帰属することになりますが、土地の管理責任はついてきます。
たとえば土地が土砂崩れをして近隣の住民に迷惑をかけたら、相続人の管理責任を問われてしまいます。
土地の管理責任は放棄しても消えず、その土地を売却などで他の人に引き渡すまでついてくるのです。

空き家問題とは?

空き家とは文字通り、住む人がいない家のことです。
施行された法律では、空き家はその調査を行いデータベースを整備し、適切な管理、立ち入り、行政代執行などができるようになりました。
また空き家が朽ちかけ、あるいは立木などが周辺の住環境に悪い影響を与えている場合には、管轄自治体が立ち入り、除去などの代執行を行います。
上記の日経記事では、空き家問題は地方で先行し、やがて首都圏でも顕在化するべき潜在的な予備軍(65歳以上の高齢者だけが住む戸建てとマンションの持ち家)が東京、大阪、名古屋に330万戸あり、全国の持ち家の10.3%に達するとのことです。
現在の全国の空き家予備軍は705万戸で全国の持ち家3,179万戸に対し22%になり、予備軍のうち約半数の48%が三大都市圏に集中していることになります。

愛媛県の刑務所を脱走囚が、瀬戸内海の島で空き家に潜伏した事件は記憶に新しいですね。
また、ある自治体が朽ちかけた空き家を撤去し、その費用数百万円を相続人に請求する事例も出てきました。
さらに空き家率が30%を超えると行政サービスが滞り、犯罪やスラム化の温床になるとの外国の事例もあります。
日本でも、すでに空き家率が30%に近づきつつある自治体もあるようです。

特にマンションで空き家が進んでしまうと十分な管理費が集金できずに管理が疎かになります。
また、一定の議決権の必要な大規模な修繕や改修、建て替えなどの合意形成もますます難しくなり、マンションそのものが朽ちて、スラム化してしまう恐れもあります。

所有者不明土地問題とは?

次に所有者不明土地とは、不動産登記簿謄本等の土地台帳により現在の所有者がただちに判明しない、判明しても連絡先がわからない土地のことを言います。
要するに真の所有者の記載が登記簿謄本にない土地のことですね。
近年では東日本大震災の復興事業で住宅再建や復興まちづくりでの障害となって問題となりました。
たとえば先祖伝来の土地が明治以来、共有状態になっていて、しかも相続人の数が100名以上になっているが、その相続人たちの連絡先がわからない。
連絡先を突き止めても全国に点在していたり、中には行方不明になっていたり、海外に移住しているケースもある。
加えて連絡先を調査するために多大な手間暇と費用がかかることが足かせになっている現象もあり、行政コストにもなっています。
また雑草や樹木が生い茂り、あるいは不法投棄、崖崩れなどで近隣の環境に悪影響を与えているケースもあります。
このように空き家、所有者不明土地は多くの外部不経済を引き起こす社会問題となっています。
また、いつ自分の身に降りかかるかわからないので、人ごとで済ますことはできませんね。
次回は、民法、登記、相続税、固定資産税など空き家、所有者不明土地問題をとりまく環境、諸問題について考察します。

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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