借地権との賢いつきあい方①

相続アドバイザーの守屋佳昭です。

今回から3回にわたり、借地権について考察してみたいと思います。

借地権というのはとてもトラブルの多い権利です。よく世間では「いったん貸した土地は二度と戻ってこない」などと言われます。

トラブルが多いということは、借地権とは非常に分かりにくい権利だからです。

今回は、この分かりにくく、トラブルの多い借地権をひも解き、借地権との賢い付き合い方を考察してみたいと思います。

借地権を複雑にしている要素は、まずは貸す側と借りる側の不公平感が大きいことが挙げられます。

次に借地の権利関係が非常にややこしく、一般常識では解釈できないために問題を複雑にしていることが考えられます。

なぜ不公平感が大きいのか、なぜ権利関係がややこしいのか、を理解するためには借地権の歴史をひも解くことがカギになっていると思われます。

そこで第一回目の今回は、そもそも借地権とは何か?ということと借地権の歴史的な変遷について書いてみたいと思います。

借地権を持つ人の悩みとは

借地権の歴史をひも解く前に少し借地権に頭を慣らしておくのがいいと思います。

もしあなたが誰かから借りた土地の上に建物を建てて住んでいるとして、下記のような悩みを抱えていると考えてください。

またこのブログでは借地権を持ち、その借りた土地の上に建物を建てて住んでいる人を「借地人」と呼びます。同様にその土地を貸している人(底地を持っている人)を「地主」と呼びます。

  • 地主が毎年のように地代の値上げや契約更新時の更新料を払えと言ってくるが、どうしたらいいのか?
  • 家が古くなったのでリフォームしたい、あるいは新たに家を建て替えたいが、地主に承諾料を払わなければいけないのか?
  • 借地権を子供に相続させることができるだろうか?その時の相続税はいくらかかるのだろうか?
  • 借地権を売却することはできるだろうか?その時はいくらが相場の金額なのか?またその税金はいくらかかるのだろうか?

答えはこのブログを最後まで読んでいただければご理解いただけますので、頑張ってお付き合いください。

そもそも借地権ってなんだっけ?

借地権とは、借地上の建物と借地人を特別に保護する賃借権*であり、3つの要件が必要とされています。

  1. 借地が借地人の建物所有を目的とすること
  2. 借地が賃貸借であること
  3. 借地が一時使用貸借ではないこと

借地:他人から土地を借りること
借地権:自己所有の建物を建てるために、地主から土地を借りる権利
借地人(借地権者):借地権を有する者

*借地権には地上権も含まれるがケースが少ないので割愛した。

借地権を理解するうえで重要な概念

借地人の持つ借地権と地主の持つ権利(これを底地といいます)を合わせて100%の土地の所有権になるということです。ちょうど冒頭のイラストのように土地が上下に二重構造になっているイメージを持ってもらえるとわかりやすいと思います。

言葉を換えれば、仮に借地人の持つ借地権が所有権の所有権の70%だとすれば、残りの30%が地主の持つ底地権になるということです。

この70%を借地権割合と言って、各地の慣習によってだいたいの相場が決まっています。極端な話ですが借地権がない地方もありますし、また商業地と住宅地ではその割合が異なることが一般的です。

ここまでで借地権が法律特有の考え方で二重構造になった土地の権利の片割れあることをご理解いただけたかと思います。

借地法の歴史的経緯

ここでわが国における借地権の歴史的経緯について振り返ってみましょう。

借地権の歴史を踏まえれば、借地権とはどのようなものなのか理解が進むはずですので、頑張ってお付き合いください。

明治29年(1896)民法制定

日本が明治政府の近代化の流れの中で「民法」を制定しました。民法には「所有権絶対の原則」があり、所有権は絶対不可侵の権利とされる一方で、土地を借りる権利である「借地権」は弱い権利でした。これは地主が変わったときは借地人は第三者である新地主に借地権を対抗できないことを意味しました。この頃、日清、日露戦争の戦争特需で土地の価格が高騰しており、地主の中には仮装譲渡してまで借地人を追い出したり、借地人に対して法外な地代の値上げを要求する地主が現れたりして、社会問題となっていました。

明治42年(1909)建物保護法

この建物保護法という法律によって借地人は自分の建物を登記しておけば、地主が代替わりしても新地主に借地権を対抗できるようになりました。これ以前の民法では契約自由の原則に委ねられていたため、賃貸借契約において賃借人が不利な契約をしがちでした。先に述べた借地人を追い出したいために、地主が他人に土地を譲り渡し、譲渡人から借地人に対して明け渡しを求めるようなことが横行していました。

大正10年(1921) 借地法制定

借地に関する基本的事項が民法によらずこの借地法という法律に従うことになりました。それまでは賃貸借の期間や地代について紛争が増加し、借地人を保護するために借地法が制定されました。借地権の期間は堅固な建物60年、それ以外は30年としました。期間満了によって借地権は「消滅」するとしました。これにより短期間の借地契約を禁止し、建物を保護すること、すなわち第1次世界大戦後の経済発展の中で、旧勢力の地主階級に対する新興の産業階級の勃興という意味合いもありました。建物の朽廃・滅失、建物買取請求権、売買時等の地主の承諾など現在の借地借家法に通じる規定も多数採用されました。

昭和14年(1939) 地代家賃統制令

時代は、日中戦争の最中、先の大戦を目前として国家総動員法に基づく勅令として地代家賃統制令が制定されました。物価統制を目的として地代家賃に上限を設けましたが、敷金、礼金、権利金には統制がなかったため、地主は契約の更新を拒絶して借地人を追い出しました。

昭和16年(1941) 借地法改正(借家法改正)

契約期間満了に際し、地主が契約を更新拒絶するときは相当な「正当事由」が必要であると法改正し、事実上更新拒絶を難しくしました。当時「正当事由」の定義は曖昧で、借地上に建物があるかぎり、借地権の更新は原則可能とされていた。1937年から始まった日中戦争の長期化の中で労働力が農村から都市に引き出され、住宅不足となった。一般消費物価とともに地代の高騰を抑える意味と戦時体制下で世帯主が戦地に赴任した留守宅家族が借地から追い出されるのを防ぐ目的があるとされました。

ちなみに借家法も同様で、更新拒絶には「正当事由」が必要とされ、家賃統制、戦時下の留守宅家族の保護という社会政策としての役割がありました。

昭和41年(1966) 借地法改正

前回の借地法改正で借地人は更新拒絶を免れることはできましたが、借地上の建物の売買、増改築、建替えは地主の承諾が必要でトラブルとなっていました。

高度成長期における住宅不足を解消のため借地人が自己の建物を増改築、再築するにあたり地主の承諾が得られないときは裁判所が許可を与えることができるとした「借地非訟事件手続き」を導入しました。

同じく、木造から鉄筋コンクリートへの建て替え、借地権の譲渡、転貸も地主の承諾が得られないときは裁判所が許可を与えることができることとしました。この法改正により債権である借地権は、所有権と同じ物権である地上権に限りなく近いものになりました。(法律上、借地権は債権とされています)

平成4年(1992)借地借家法制定

度重なる借地法の改正で地主の権利は弱体化していきました。結果、新たに借地契約を踏み切らない地主が増え、土地の有効活用が図りづらくなってしまいました。

それまでの借地法、借家法を廃止し新法が一本化され、地主に有利な点も盛り込まれたが、新法施行前の大多数の借地契約にはほとんど適用されませんでした。また「借地非訟事件手続き」をこの新法でも踏襲されました。

さらに新法には更新のない「定期借地権」の条項が加えられました。この定期借地権契約を結ぶと借地人は更新できず、存続期間が終了したら地主に必ず借りていた土地を返さなければなりません。

これは、「土地を貸すと半永久的に戻ってこないという地主の批判に応えるもので、新法で創設されたものです。

しかしながら、後述するようにあくまでも契約時点の法律が適用されるので、たとえ法改正があったとしても旧法・借地権が違法となることはありません。旧法で契約を一旦、終了して定期借地契約を結ぶことは理論的には可能ですが、現実的には非常にハードルが高いのが現実です。

したがって圧倒的多数の借地にはいまだに旧法が適用されているのが実態です。

結果として借地人の強い権利は温存されたままなのです。

過去の借地権の効力は続く

もうすでにお気づきのように借地権の歴史は、少なくとも1909年以降は借地人の権利の強化100年の歴史であったわけです。

あまりにも弱かった借地人の権利を戦争などの社会的な要請を背景に究極まで強化した歴史といってよいでしょう。

平成4年に施行された現在の借地借家法は、地主、借地人双方にとってある程度公平なものになっています。

ただし先述したように法律には「法令不遡及の原則」があり、新しい法律が制定されたとしても、現に有効な借地契約には制定前の事実にさかのぼって適用されるというものです。
つまり、あくまでも契約時点の法律が適用され、たとえ法改正があったとしても違法となることはありません。圧倒的多数の借地にはいまだに旧法が適用されているのが実態です。

現行の借地借家法と過去の借地法の規定とが併存していることが、不公平感が大きいことと権利関係がややこしいことにつながっていることをご理解いただけたものと思います。

次回は借地に関する現在の適用関係と借地権をめぐる金銭の授受、借地権をめぐるトラブルについてお話します。

参考図書:

野口悠紀雄 1940年体制 さらば戦時経済 東洋経済新聞社

金沢均 イラスト六法 わかりやすい借地 自由国民社

河合健 民法入門 有斐閣

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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