空き家、所有者不明土地問題について③

相続アドバイザーの守屋佳昭です。
三回続けてきました空き家、所有者不明土地問題について、三回目の最終回はこの問題の問題解決のため、民法(相続法)、不動産登記法、相続税、固定資産税について考察していきたいと考えています。

国民の私有財産である、家、土地が空き家になることは様々な外部不経済を引き起こすことは既に述べました。
それが国民経済にマイナスの影響を与えるとすれば、是非解決しておくべき国民的課題になります。

日本は終戦後、経済復興期・人口増下期にその時代に即した法律、税金等様々な制度が整備され、奇跡と呼ばれる復興をとげました。ところが経済安定期に入り、高齢化、人口減少化の時代背景も相まって現行の制度が今の時代にマッチしていなくなってきたのは前回までこのブログで述べてきたとおりです。

所有から利用へ

いわゆるアイドルエコノミーの到来です。
ウーバーはタクシーの配車アプリで、空いている自家用車を使っていわば「白タク」ができるようになっています。
エアービーアンドビーは民泊のアプリで、空いている家、部屋を民泊で活用できるようになっています。
経済成長期には、人々の価値観として家や車を「所有」することが重要視され、奨励もされてきました。
最近では個人があまりに多くのものを「所有」することの弊害、それらへの批判もあって空いている(アイドルな)資産をできるだけ「利用」する時代に人々の考え方がシフトしつつあります。

このような時代の変化にもかかわらず、各種法制度がいまだに戦後から脱しておらず、対応不全を起こしています。

民法(相続法)について

遺産相続の考え方は、人が亡くなるとその人の財産は相続人全員の共有となります。
その後、法律上有効な遺言があれば、原則その通り分割されます。(相続人全員の一致で遺言を変更することができます)
遺言がなければ、相続人全員の合意で遺産が分割されます。
これを遺産分割協議といいます。
ここで円満に分割ができなければ調停・審判となりますが、放っておくと空き家、所有者不明土地は発生してしまいます。しかも相続には期限がありません。(相続税の申告期限は亡くなってから10ヶ月ですが、相続そのものの期限はありません)その結果、何代もの間、放置された家や土地が残ってしまいます。
したがって、相続そのものに法的な期限を設けること。
また相続による放棄は既に述べたようにプラスの財産もマイナスの財産も全て放棄する方法しか認められていません。したがって相続による土地、建物の所有権の放棄を認めること。
また所有権の消滅時効を認められていません。所有権が消滅するように見えるのは、時効取得によって所有権が他のものに移転する反映としてであって、決して所有権が消滅するわけではありません。
したがって相続による所有権の消滅時効を認めること。
上記によって期限内に相続によって遺産分割されるか、土地だけの放棄や消滅時効により最悪でも国庫に帰属することになり所有者不明、放置された状態は解消されることになります。
国庫に帰属されたものは国の主導により利用あるいは管理されることになります。

不動産登記法について

そもそも日本の不動産登記制度には公信力はなく、公示力しかありません。
公信力とは、文字通り「公に信じさせる力」です。
これに対し、公示力とは「公に示す力」です。
たとえば土地の所有権が登記されていても公に信じさせる力はなく、公に示す力しかないことになります。
諸外国には登記の公信力を持たせる国もあり、たとえば土地や家を相続した場合に登記をしなければ所有権の移転が認められません。
登記をしなければ、所有権の移転がなされたことにならないのです。
日本での登記は公示力しかなく、その効果は第三者に対する対抗要件でしかないので、任意になっています。

また相続による不動産の所有権移転登記の登録免許税は0.4%ですので、1億の土地を相続すれば40万円の登録免許税がかかり、その他印紙税、登録の諸経費と併せて総額で結構な金額になってしまいます。

したがって登記に公信力を持たせること。
登録免許税などという不動産の流通を阻害する税金を撤廃すること。
登記費用を手数料化すること。

相続税について

そもそも相続税は日露戦争の際に戦費調達として創設された税金です。
それが憲法で戦争放棄をしている国の税金として残っているのです。
しかもその趣旨は、親からただで財産をもらった者に対する懲罰的な税金で、目線がかなり低いです。
明治から昭和の終戦まで日本は家督相続の時代で、基本的に親の財産はすべて長男が相続しました。
土地が解放された現代では、大地主などは少なく、現在の民主憲法下での相続は均分相続です。

さらに相続税対策などでゆがんだ不動産バブルを生みだしたことは既に述べました。
受け継いだ不動産に懲罰的な税金を課すのではなく、私有財産でもあり公共財でもある不動産の維持管理を責任をもって果たすことができるようにすべきです。
諸外国のなかにも相続税がない国があります。
ただし、富の偏在は社会を不安定にすることも確かです。
本当の富裕層に対する相続税は厳格化して、かつ、社会福祉に対する寄付、贈与などを促進して富の再配分を促進することは重要です。
したがって相続税は税率構造を含め大幅に変更し、富裕層は厳格化、一般層は緩和すべきです。

固定資産税について

固定資産税とは、土地、建物、償却資産にかかる地方税で、下水道整備、ごみ収集などの公共サービスの財源になっています。
一般的にはマイホームなどを持っている人が払うもので、毎年6月頃に納付すべき税額が記載された納税通知書が届きます。
この固定資産税の最大の問題は、固定資産の価額に応じて税額が決められる従課税であることです。
土地建物の価値と受けるべき公共サービスの受益額に何ら因果関係はありません。
耐震や防火性能が高い家屋に住んでいる人がより多くの下水やごみを出すでしょうか?
固定資産税はその課税趣旨と税の負担者がマッチしていない税といえましょう。
しかも空き家でも家が建っていれば土地は小規模宅地の特例として200㎡まで6分の1になる減税措置があり、これが空き家を助長してきました。
さすがに特定空き家に指定されるとこの減税措置はなくなるように制度改正されましたが、不動産の適正な流通を妨げている税金であり、廃止すべきものと考えます。

まとめとして

ここに述べたのは私の個人的な意見ですが、総論としてはともかく個別論になると様々な利害関係が発生し、反対が生じます。
いわば、総論賛成・各論反対、既得権益とのバッティングが生じます。
既得権との調整ができず、結果として何も変わらないのであれば何の意味もありません。
意味のあることは空き家、所有者不明土地問題などの日本が抱える課題を国民的なレベルで話し合い、現状の問題を解決していくことだと思います。

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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