相続手続きを円滑に進めるために(その3)

自筆証書遺言の方式④押印

1、 押印をする理由
押印は、遺言書作成の真正さを担保するものである(遺言書作成の真正さの担保)。また、我が国の慣行ないし法意識としては、重要な文書については、作成者が署名したうえで押印をすることによって文書の作成が完結するというものである(文書完成の担保)。この2点が、押印の要求される意味である。
最判平元[1989]・2・16民集43巻2号45頁

なお、自筆証書遺言に使用すべき印章には制限がないので実印である必要はありません。

押印自体は、それが遺言者本人の意思のもとでされるのであれば(実際に押印行為する者の判断が入っていないのであれば)本人の依頼を受けた他人によってされてもよい。
大判昭6[1931]・7・10民集10巻736頁

2、 署名だけで押印のない場合
40年ほど前から日本に在住し、帰化したロシア人女性の遺言について、押印のない署名(欧文によるサイン)だけの自筆証書遺言でも有効とした判決があります。
最判昭49[1974]・12・24民集28巻10号2152頁

しかし、これは、欧米には署名押印の慣行がないとの理由から例外的に押印不要とされたのであって、他の事例への一般的な拡張は困難であるとみられます。

3、 指印・花押であることの可否
イ) 押印は指印でもよい
最判平元[1989]・2・16民集43巻2号45頁

ロ) 花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、押印の要求を充たさない。印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が、我が国において存在するものとは認めがたいからである。
最判平28[2016]・6・3民集70巻5号1263頁

4、押印の場所
イ)押印は遺言書の本文が書かれた用紙上にされていれば足り、必
ずしも署名の下にされていなくてもよい。遺言書が数葉にわたる場合でも、1通の遺言書として作成されているときは、押印は1葉にされれば足りる。
最判昭36・6・22民集15-6-1622

ロ)遺言書本文が書かれた用紙が封筒に入れられ、その封筒の表面
に押印がされているときに、押印要件をみたすか。
「日付」と同様に、ここでも、封筒の表面にされた押印は、その封筒が遺言書と一体をなしていると評価できる場合でなければ、
自筆証書遺言の方式要件を充たさない。

遺言書を入れた封筒の封じ目に押印することは、封入された遺言  書作成の真正さを確証する意味をもつから、封筒と遺言書とは
一体のものとみてよく、押印要件を充たす。
最判平6[1994]・6・24家月47巻3号60頁

これに対して、封がされていない封筒に押印がされているだけでは、
自筆証書遺言で押印が要求される理由を充たさないから、押印とし
ては不適格と考えられる。

【判例】押印・契印
① 押印は文書の正式性、確実性を示すために用いられるから、実印である必要はなく、認印や指印(拇印その他指頭に墨、朱肉などをつけて押印すること)でもよい。
最判平1[1989]・2・16民集43巻2号45頁

② 花押を書くことは印章による押印と同視することはできない。
最判平28[2016]・6・3裁判所ウェブサイト

③ 帰化したロシア系日本人の、サインはあるが押印はない英文で作成した遺言について、欧米人の場合には、サインによって遺言の真正が保障されているとして、例外的に有効とした。
最判昭49[1974]・12・24民集28巻10号2152頁

④ 遺言書の本文の自書名下には押印がなかったが、遺言書本文が封入された封筒の封じ目に押印されているものを、遺言書と封筒が一体性を有しているとして有効とした。
最判平6[1994]・6・24家月47巻3号60頁

⑤ 遺言書には署名・押印を欠くが、封筒には署名・押印がある場合、封筒が検認時にすでに開封されていたときは、一体のものとはいえず、署名・押印を欠くものとして無効となる。
東京高判平18[2006]・10・25判時1955号41頁

⑥ 全体として1通の遺言書として作成されたものであることが確認できるならば、契印がなくてもよいし、そのうちの1枚に、日付、署名、捺印がされていれば有効である。
最判昭36[1961]・6・22民集15巻6号1622頁

自筆証書遺言の方式⑤加除・訂正その他の変更
自筆証書(財産目録を含む)中に加除・訂正その他の変更をするときは次のように行う。

1、 遺言者がその場所を指示し、
2、 これを変更した旨を付記して、
3、 特にこれに署名し、
4、 変更場所に印を押さなければ、効力がない
〔民968③〕

他人による自筆証書遺言の偽造・変造を防止するために、このような厳格な方式が要求されているのである。
こように、遺言者が訂正箇所に抹消線を引いて訂正印を押印し、新たな事項を書き加えるといった通常の方法とは異なることに注意を要します。

この記事を書いた専門家について

松岡和也
松岡和也行政書士
1959年神奈川県中郡大磯町生まれ。大学卒業後、岐村コンピューター会計事務所所長代理を経て独立。
遺言書の起案作成、相続財産や相続人の調査、遺産分割協議書の作成など相続に関する業務を行っています

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