コロナ時代のマンション① マンションの相続での落とし穴とは?

相続アドバイザーの守屋佳昭です。

現在、日本には630万戸以上の分譲マンションがあります。

これは戦後の高度経済成長期に都心部での住宅不足を補うために建造されてきたものです。居住者数は1,500万人以上、国民の8人に一人が分譲マンションに住んでいることになります。

新たにマンションを購入するときは、だれでも修繕積立金、管理の収支状況、駅からの距離、周辺環境、資金計画に注意がいきます。ただし、マンションという生活共同体ゆえの管理の問題にも注意が必要です。マンションの管理は管理会社に任せっぱなしにできるものではなく、管理組合を活動を基本として住民が自治的に管理していくものだからです。

また、コロナ禍の世界的流行は私たちの価値観の変化を急速に加速させたと言えるでしょう。

例えば、身近なところで、働き方ではリモートワークが促進され、毎日満員電車や渋滞の中を会社に通う必要はなくなりました。同時に住宅も必ずしも職場に近いところである必要もなくなりましたし、住宅の広さや機能などの環境が、必ずしもリモートワークに適さないことがわかりました。一方で移動や人との接触機会が減り、旅行や会食などに大きな制限が加えられました。

そんな中、多くの国と地域でパンデミックが起こり、あっという間に多くの人が亡くなったのを目にしました。

私たちひとり一人が嫌が故にも自分自身と向き合い、生きていくうえで本当に大事にしなければならないものは何なのか、考えさせられ、価値観を変化させたと思います。

そこで今回のブログでは、コロナ時代の住環境、特にマンションに焦点をあて、全三回にわたって考察していきたいと思います。

第一回目の本ブログではマンションの相続についてです。

マンションの持つ特殊な所有形態とは?

マンションは一棟の建物に壁や天井、床などで構造上区分され、主に住居としての利用ができるような構造になっています。そして各独立部分を101号室、102号室、103号室などと部屋番号を付して、Aさん、Bさん、Cさんに分譲され、各自が所有するというようになっています。このような状態を「区分所有」といい、その権利を「区分所有権」、Aさん、Bさん、Cさんを「区分所有者」とよび、Aさん、Bさん、Cさんが区分所有する部分を「専有部分」とよびます。

ここで区分所有が特殊な所有形態かといいますと、民法では、所有権は特定したひとつのものにしかない、ひとつのものの一部には所有権を認めないという原則があるかです。(これを「一物一権主義」といいます)

たとえば皆さんが日傘を持っているとしてください。たとえばこの日傘の傘の部分はAさんの持ち物、柄の部分はBさんの持ち物、まんなかのシャフトの部分はCさんの持ち物だとややこしいいことになりますね。そこで一つの日傘には一つの所有権しか認めないことにしたほうが都合がいいわけです。

ところがマンションには、一棟の建物に複数の所有権を認める仕組みを作りました。これが先の民法の原則である「一物一権主義」の例外になるわけです。たとえて言うとロシアの民芸品であるマトリョーシカのようなものです。

ご存じのようにマトリョーシカはひとつの大きな人形の中に小さな人形が複数入っている構造になっています。このような構造を「入れ子構造」とよびます。まず、この小さなマトリョーシカの入れ子ひとつ一つに与えられた所有権を区分所有権とよぶことをイメージに持ってください。

実際にはマンションは小さな専有部がより大きな専有部に含まれているわけではありませんが、このマトリョーシカのような構造を理解することがマンションの問題を理解するうえで重要な要素になってきます。

法律的に言うと、ひとつの大きなマトリョーシカの中に構造上独立した小さなマトリョーシカが複数入っていて、それぞれの小さなマトリョーシカは置物にしたり、入れ物にしたり、様々な用途に供することができる、すなわち利用上の独立性があるので、それぞれの小さなマトリョーシカは所有権の目的となり、この所有権をしも区分所有権とよびます。

そしてこの区分所有権の目的となる部分を専有部分、区分所有権を持つ人を区分所有者といいます。

またマンションを構成する部分には専有部分のほかに建物の共用部分と敷地があります。これら共用部分と敷地は区分所有者が共有する形で所有しています。

共有とは複数の人は一つのモノを共同で所有することです。先ほどの日傘の例でいいますと共有者の持分にしたがって全体を使うことができます。たとえば3人の人が持分1/3ずつ持っているとしますと、たとえば1年のうち4ヶ月ずつ使えます。

共有の場合も民法の原則通り所有権はひとつのモノに一つであり、全部を持分に応じて使えるというものです。決して日傘の傘の部分だけを使えるとか、柄の部分だけを使えるというものでもありません。

ここでマンションの共有物であるエントランス、廊下やエレベーターなどの建物の共用部に例外規定を設けています。それはマンションの共用部は民法に規定に従って持分に応じて使えるとすると具合が悪いからです。例えばマンションのエレベーターは持分に応じて1年のうち〇ヶ月ずつ、1週間のうち〇曜日と〇曜日、1日のうち〇時間というような使い方はできません。あくまでも、持分ではなく、その用法に従って使えると規定しています。

敷地については建物を保有するための権利として「敷地利用権」という権利で規定されています。建物を保有するためには当然に敷地を利用する権利が必要なので、その実態が所有権、地上権、借地権、使用借権であろうと「敷地利用権」という権利で、その用法も含め、規定されています。

以上、マンションの定義を法律上まとめますと、

①2以上の区分所有者が存する建物で、

②人の居住の用に供する専有部分のあるもの

ということになります。(マンション管理適正化法)

ということで、その構成部分は次のようになっているといえます。

  • 区分所有権の目的である専有部分
  • 共有物である共用部分と敷地利用権

また賃貸マンションはこの法律ではマンションにはなりません。

なぜなら、賃貸マンションは②の人の居住の用に供する専有部分はあるものの、建物すべてを一人の人が所有するものですので①の要件に該当しないからです。

したがって、本ブログではこの法律の定義によるところの一般的な分譲マンションについて考察することにするのは、冒頭でお話ししたとおりです。(ここでいう一般的な分譲マンションとは、投資用のワンルームマンションで、専ら他人に貸して賃料収入を得ることを目的としたものではなく、団地や店舗複合型でもなく、単棟の住居専用のマンションを想定しています)

専有部分、共有部分、土地(敷地利用権)の一体性の関係

話は少しややこしくなりますが、厳密にいうと敷地は①法定敷地②規約敷地③みなし規約敷地の3つがあります。

①法定敷地とは現に建物が建っている土地をいいます。②の規約敷地とは建物の敷地ではない、たとえば公道を挟んで向かいの土地にマンションの住民が使えるテニスコートや駐車場などの土地をいいます。この土地をマンション全体の管理として建物や法定敷地と一体と管理したほうが好都合と判断した場合にはマンションの規約でそのように定めまることができます。③は建物の一部が地震や火災などで一部滅失して建物の敷地でなくなってしまった場合、法定敷地の分筆で建物の敷地でなくなってしまった場合に外見上、法定敷地であることが誰の目から見ても明白でなくなる場合に、その一体性を確保するためにその土地を②の規約敷地(特に何らの手続きなしに自動的に)と「みなした」ところのその敷地をいいます。

なお、規約敷地あるいはみなし規約敷地から外すためには集会の決議で規約を変更することが必要です。

滞納管理費等の債務の支払い義務

マンションを相続した人(包括承継人)は、区分所有法の規定を待つまでもなく、当然に承継前の債権・債務を引き継ぎます。

そこでよく問題になるのが、滞納管理費等の問題です。

先取特権とは?

先取特権とは、法定担保物権で一定の債権を有する債権者が債務者の財産から、他の債権者に優先して弁済を受ける権利のことをいいます。

区分所有法上の先取特権は、滞納管理費のような区分所有関係から生じる債権につき認められています。

そしてこの先取特権は一般の先取特権の一種である共益費用の先取特権とみなされ、他の一般の先取特権に優先します。(動産の先取特権、登記された抵当権などには劣後します)

先取特権の行使は、まずは建物に備え付けた動産に始まり、最後は区分所有権を競売にかけることにより、債権の回収を図ります。

さらに民法の即時取得の規定が準用されます。すなわち、建物に備え付けた動産が第三者から借り受けていた絵画などでも先取特権の行使の対象になります。

また物上代位性により専有部分を賃貸していた場合にはその賃料収入にも及びます。

以上により先取特権は、登記された銀行ローンの抵当権には劣後するものの、管理費の滞納に対して支払い督促や訴訟の手続きによらずに、その登記をしなくても、債権回収が図ることができる強烈な手段ということができます。

包括承継人の責任とは?

マンションの共有物である敷地や共用部分を維持管理していくための費用である管理費等は区分所有者が当然に負担すべきものであり、現に住んでいなくても、売買により取得した特定承継人にもその責任が及ぶと解されています。

また区分所有法では、区分所有者の権利・義務を定めていて、各区分所有者は他の区分所有者に滞納管理費を支払わせる権利と支払う義務とを規定しています。そしてこの権利義務は特定承継人にも適用され、同じ既定が包括承継人にも運用されます。

例えば、親がマンションの管理費や修繕積立金などを滞納して亡くなったとします。

ますは親が滞納した管理費の支払い義務を相続人であるあなたが承継します。そして管理組合(正確には他の区分所有者全員からの管理費債権支払い請求の対象となり、場合によっては裁判で訴えられることもあります。

尚、包括承継人に対して先述した先取特権が適用されるかは、法律上議論があるようです。

共同利益違反行為による使用禁止、競売請求とは?

そもそも区分所有者は、区分所有権という所有権を持っているので専有部分の使用、収益、処分は自由にできるはずです。しかしながら専有部分というのは一棟の区分所有建物の一部にすぎず、区分所有という所有形態は、他の区分所有者との共同生活を伴うから自ずと制限を受けます。

そこで区分所有法はこの制限を「共同の利益に反する行為」をしてはならない、と定めました。

「共同の利益に反する行為」は具体的には、外壁に穴を開けて耐震性を弱めたり、悪臭や騒音を生じさせる行為をいいます。

そして判例によると、管理費の滞納により管理費に不足が生じ、管理が不十分になったり、他の区分所有者が立て替えなければならない事態になるとこの「共同の利益に反する行為」に当たるということがあり得ます。

そもそも管理費の滞納は金銭債権の債務不履行ですから、その支払いを裁判上の訴えを含めて包括承継人に請求できるのは当然のことです。

区分所有法上のこの「共同の利益に反する行為」に該当すると、区分所有関係からの排除を目的として、包括承継人に対して専有部分の使用禁止請求または区分所有権の競売請求をすることができます。

またこれも当然のことですが、専有部分の使用禁止になるとそれと一体になった敷地や共用部分の使用も禁止され、共用部分の一角にテントを張って生活するとか、駐車場の一部にキャンピングカーを留めて生活することはできません。

また区分所有権の競売は、形式競売といわれるものです。通常の競売は、強制競売とか不動産担保競売とよばれるもので、その目的は債務の弁済です。先の先取特権は不動産担保競売で、強制的に競売にかけ、代金を債務の弁済にあてることです。

ところがこれらの競売は無剰余取消といって、競売を申し立てた人の配当が無い場合には裁判所で競売が取り消されることがあります。

先取特権は、登記された抵当権に劣後するのは先にご説明した通りですが、例えば住宅ローンなどの抵当権が登記されていると無剰余取消になる可能性は高いです。

ところがこの区分所有権の競売は、たとえ無剰余でも取り消されることはありません。なぜなら競売の目的が区分所有関係からの排除だからです。

その結果、区分所有者はマンションから立ち退かざるを得なくなります。

競売によりこの区分所有権を買い受けた人は、特定承継人として滞納管理費の支払い債務を引き受けることになり、滞納管理費の回収を図ることができるというわけです。

敷地利用権の相続における民法の適用除外

共有者一人が、死亡して相続人がいないときは、その共有持ち分は他の共有者に帰属します。(民法255条)しかし、敷地利用権が数人で有する所有権等である場合で専有部分と敷地利用権の分離処分が規約により禁止されている場合には、この民法の規定は区分所有法により敷地利用権には適用されません。もし民法のこの規定が適用されてしまうと敷地利用権は他の共有者に帰属することになってしまいます。片や、専有部分は遺贈がなければ特別縁故者への分与の対象となり(民法958条の3)、その分与がなされないときは国庫に帰属します(民放959条)。

これでは建物部分と敷地利用権がバラバラになって(建物が無権利の土地の上に建っているというおかしなことになり)、その一体性を確保することができなくなります。

そこで、この場合には敷地利用権は民法の適用除外され、敷地利用権も専有部分と同じく、特別縁故者への分与の対象となり、その分与がなされないときは国庫に帰属することになります。

 

(参考文献)

区分所有法の解説(渡辺晋)住宅新法出版

マンション法案内 (鎌野邦樹)勁草書房

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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