空き家、所有者不明土地問題について②

相続アドバイザーの守屋佳昭です。
前回7月1日付けのブログで、空き家問題と所有者不明土地問題を取り上げました。
今回はその続編ですが、少し間が空いたので簡単におさらいをしておきます。

前回のおさらい

まず、空き家とは文字通り、住む人がいない家のことです。
現在の日本全国の空き家予備軍は705万戸で全国の持ち家3,179万戸に対し22%になります。
このまま推移すれば2040年には空き家率は40%になると予測されています。

2013年にはアメリカ中西部の都市ミシガン州デトロイトで連邦破産法に基づく破産申請となり、その後空家率が30%となりました。市の税収が減ったことにより警察、学校などの行政サービスの低下、スラム化と殺人、強盗などの犯罪が多発しました。
日本で同じような犯罪が起こるとは思えませんが、空き家率が一定水準(たとえば30%)になると自治体の財政を悪化させ、街が荒廃していくことが懸念されます。

次に所有者不明土地とは、不動産登記簿謄本等の土地台帳により現在の所有者がただちに判明しない、判明しても連絡先がわからない土地のことを言います。
現在、日本の国土のうち、九州に匹敵する面積410haが所有者不明土地のものとされ、このまま推移すれば2040年には北海道に匹敵する面積720haになると予測されています。

所有者不明土地は東日本大震災の復興事業で住宅再建や復興まちづくりでの障害となっていたのは前回記述した通りですが、近年多発している台風、集中豪雨、地震など自然災害は人ごとではありませんね。

上記の問題だけでも空き家問題と所有者不明土地問題は、地域、世代を問わず私たち全員の問題ととらえることができます。

空き家問題と所有者不明土地問題の本質的な原因は、少子化による人口減少、高齢化に伴う大量相続社会の到来により土地、建物の相対的な資産価値が低下したことと考えています。

また人々の価値観も時代ととも変化しています。

諸制度についての考察

今回は、民法(相続法)、不動産登記制度、相続税、固定資産税など空き家、所有者不明土地問題をとりまく諸制度について考察します。
(内容には個人的な見解を含みます)

民法(相続法)について

相続は、被相続人の死亡により開始し、遺産分割までは共同相続人の共有になります。

遺産分割は相続人全員参加の遺産分割協議により、全員一致で成立し、協議が調わなければ、家庭裁判所に申し立て、調停、審判を仰ぐことは可能です。

ところが、家、土地の相続を放置してしまった場合には共有状態が続き、共同相続人の死亡により共有状態が次世代に引き継がれてしまいます。

相続には時間的な制限がありません。だれも相続したがらない家、土地は何代も共有状態が続いたまま、放置されることになります。

また、この共有(所有権)は時効により消滅することはありませんので、放置された空き家、空き地を利活用しようとする場合には共同相続人全員の同意が必要となります。

また相続の形態は、単純相続、限定承認、放棄の三つしかありません。単純承認はプラスもマイナスも全ての財産を相続すること。限定承認とは得たプラスの財産を限度にマイナスの財産を承認すること。放棄とはそもそも相続人の地位を拒絶するもので、子も代襲相続をしません。

共同相続人全員が相続放棄した家、土地は最終的に国庫に帰属しますが、雑草、放火などの管理責任は問われてしまいます。いずれの場合も家だけ、家あるいは土地だけなど特定の財産だけを放棄することはできません。

上記のように現行の民法は、不動産を相続(所有)と利用との間のギャップに対応していないのではないでしょうか?このことが所有者不明土地、空き家問題を助長し、さらに一層厄介な問題にしていると思われます。

不動産登記法

不動産の登記をするには複雑な手続きと専門的な知識が必要です。したがって司法書士に依頼するのが一般的です。

また登録免許税という税金もかかります。相続による不動産の所有権移転登記には不動産の価額の0.4%の税金がかかります。不動産を相続すると、司法書士の報酬と併せてほぼ数十万円の費用がかかります。

このようなコストをかけて不動産登記簿に公示されます。しかしながら登記には「公示力」はあっても「公信力」はありません。

このことは何を意味するかというと、登記には「対抗要件」しかないことです。登記は第三者との対抗関係になったときに初めて効果を発揮し、先に登記を備えた方が勝つということです。

法律関係・権利関係が成立するための法律要件を「成立要件」といいますが、この「対抗要件」に対する概念です。成立要件とは、所有権移転登記をして初めて所有権の移転が法的に成立することです。日本の登記制度は登記を対抗要件とし、成立要件としていないのです。したがって所有権などの登記は任意です。

だれも相続したがらない不動産の登記が放置されやすい要因になります。

相続税

相続は人生の中で二度くらいのイベントで、相続税も馴染みのある税金ではありません。しかも課税対象となる割合は、せいぜい死亡者の10%程度です。

しかもこの税金は計算の仕方が大変複雑になっています。仮に相続財産の内訳が全て判っていても、相続税額を計算できる人はほとんどいないのではないでしょうか?

また税金は相続税に拘わらず、誰も喜んで支払う人はいません。とくに後で述べる固定資産税と相続税にはストック(財産)に課税する懲罰的な性格がある税金なので尚更です。

相続税は、良い節税方法を活用し、できるだけ払いたくない、というインセンティブが強く働きます。

また日本では過去にも相続税対策ブームという現象が起こりました。高度成長時代に地価が高騰し、地主がアパート、マンションをこぞって建てました。所有している土地に、その土地を担保にローンを組み、建てた建物の相続税評価額とローンとの差額を相続税対策にするものです。

現在でも相続税大増税時代などとマスコミが盛んに煽ります。それに呼応するように相続税対策の本が書店に並び、ハウスメーカー主催の相続税対策の無料セミナーが活況なようです。

そもそも相続税は日露戦争時に戦費調達を目的として創設されました。戦争は終わり、憲法で戦争放棄までしているのにこのような複雑で、懲罰的な税金が存続しています。相続税が相続そのものを歪め、ひいては空き家などを助長しているのではないでしょうか?

固定資産税について

固定資産税とは、市町村が毎年1月1日現在の所有者に、その所有する土地、家屋等について賦課課税方式で課税するものです。

市町村が算定した固定資産税評価額に対して税率1.4%を乗じた税額が徴収されるものです。
また、ここでいう所有者とは登記簿または土地(建物)補充課税台帳に所有者として記載された者を言います。

そもそも固定資産税は租税としての立法趣旨に問題を内包しています。以下は空き家、所有者不明土地に関連するものだけを述べるに留め、この問題は、別の稿で改めて包括的に考察したいと思います。

まず、所有者が登記簿等で不明になっていれば、現にそこを使用している者を除き、課税が及ばないことになります。たとえば相続を放棄したり、相続しても登記しなければ課税を免れる人も多くいると推測されます。

逆に言うと不用意に登記してしまうと市区町村に所有者として固定資産税を一生払わされることになります。

次に小規模住宅地の特例という制度があり、200平米以下の住宅用地としての土地は課税標準額が土地の価格の1/6に軽減される特例があります。

これだけでは税金が安くなる特例で一見結構なことだと思われます。

ただし、不用意に建物を取り壊して更地にしてしまうと(建物には当然課税されませんが)、小規模住宅地の特例が適用されなくなり、土地に対する税額が6倍になってしまいます。

また課税根拠は行政サービスの受益であるとしていますが、保有する資産価値と受益する行政サービスには関連性がありません。

防火性能、バリアフリー、環境性能の高い、いわばコストの高い住宅と劣悪な住宅との間に受けている行政サービスに差があるのでしょうか?

ここでいう行政サービスとは道路や公園の整備、上下水道の敷設、ごみ収集、消防・学校の施設の充実をいいますが、その受益に応じて課税されているとは言い難いのが現状です。

また固定資産税は防火性能の低い、バリアフリーでない、環境性能の低い、いわば安普請の住宅の方を優遇する税制といえます。

行政サービスを受けることのない(と感じる)、利用しない家や土地に毎年固定資産税を課税されるのは理不尽と考え、積極的に登記するインセンティブは働きません。

次回は、最終回として上記の課題から、空き家、所有者不明土地の問題解決の方法について考察したいと思います。

この記事を書いた専門家について

守屋佳昭
守屋佳昭相続アドバイザー
東京都大田区出身、大田区在住。大学卒業後、モービル石油(現エネオス株式会社)に在籍し、主に全国のサービスステーション開発を担当。定年退職後、アパマン経営と相続に特化したコンサルタント業を開業。NPO法人相続アドバイザー協議会監事、日本相続学会認定会員、大森青色申告会副会長  保有資格 宅地建物取引士

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